「マスク未着用の方 入店をお断り」という案内の「未着用」をどう感じるか伺いました。
目次
大きな差はつかず
この写真の「マスク未着用」どう感じますか? |
「未着用」でよい 34.1% |
「不着用」がよい 21.8% |
「非着用」がよい 25.2% |
上のいずれもしっくりこない 18.9% |
回答は割れました。3分の1は「未着用」でOKと判断しましたが、「不着用」「非着用」「いずれもしっくりこない」という回答もそれぞれ2割前後。決め手に欠ける結果となりました。
使い分けに悩む接頭語
後ろの言葉を否定する接頭語「非」「不」「未」「無」の使い分けは難しく、しばしば悩まされます。「岩波日本語使い方考え方辞典」(岩波書店)によると、だいたい次のように整理できます。
「非」:名詞や形容動詞の語幹に付いて、「その枠組みには入らない」という意味。「非科学的」「非常勤」など
「不」:名詞や形容動詞の語幹に付いて、「それを否定する」という意味。「不健康」「不自然」など
「未」:は動詞的な意味の漢語について「まだそれが実現しない」という意味。「未登録」「未経験」など
「無」:名詞に付いて「その物や状態が存在しない」という意味。「無条件」「無免許」など
特に「非」と「不」は区別が難しく、「不合理」と「非合理」など両方使える場合もあります。
その中で「未」は比較的意味が特殊で、「未着用」であれば、「まだ着けていない(これから着ける)」というニュアンスが出るからどうなのか――と考えたわけですが、アンケートでは選んだ人が3割を超え最多でした。対して、単に「着用しない」という意味になり素直なはずの「不着用」を選んだのは2割程度。そもそもこの組み合わせがしっくりこないという人が多いのかもしれません。
一方、「非着用」とあると、たとえば「非食用」が「食用ではない」ということを表すように、「身に着けて用いるものではない」という意味にも見えてしまいます。ただ「シートベルト非着用の場合は事故での死亡率が高い」といったようによく見かける表現で、なじんでいる人も多そうです。
「未」は「これから」への期待?
ツイッターでは、店側の立場に立って「まだ着けていないだけであってこれから着けてくれるんですよね」という意味で「未着用」なのでは――という意見があり、なるほどと思わされました。今マスクを着けていなくても、これから着けて入店してくれることが店にとってはベスト。こう考えると「未着用」に違和感を覚えた出題者も、これでよいのではないかという気になってきました。アンケートの結果とも合わせ、おかしいと断言はできないでしょう。
どれもなじまないと感じるなら…
ところで最近、マスク着用を拒否したバスの乗客を運転手が途中で降ろしてしまった、という記事が掲載されました。編集者は最初「マスク未着用の乗客降ろす」といった見出しをつけたのですが、編集部長の意見は「『未着用』は堅苦しくてこなれていない」。最終的に「マスク拒んだ客降ろす」(大阪本社版)、「マスクしない客降ろす」(西部本社版)となりました。
今回のアンケートからすると「未着用」「不着用」「非着用」どれを選んでも、「これじゃない」感を覚える人は一定数いそうです。漢字のみで表現せず、違和感なく読める言い換えを模索するのも有力かもしれません。
(2022年09月29日)
デパートの入り口の案内に少々引っかかります。マスクを着けなきゃ入店できないの?というところではなく、マスクを着けていないことを「未着用」と表現するところです。▲「未着手」であれば「まだ着手していない」、「未使用」であれば「まだ使っていない」ということ。「今後着手する」「今後使う」という含意があります。「マスクを(今後着けるが今は)着けていない人は入れません」というニュアンスを出す必要があるでしょうか。▲実は新聞原稿にも出てきたことがあり、言い換えを検討しました。出題者の第一感は「不着用」でしたが、「非着用」の方がよいという同僚もいます。しかし毎日新聞の過去記事で「マスク未着用」もそれなりに見つかるので「未着用」許容派もいるということ。漢字のみで表現するのがしっくりこなければ「マスクを着けず」「マスクをせず」のような言い換えも検討したいところですが、アンケート結果はどうなるでしょうか。
(2022年09月05日)