読めますか? テーマは〈よいこと〉です。
目次
重畳
ちょうじょう
(正解率 77%)「じゅうじょう」も記す辞書はあるが一般的とはいえない。幾重にも重なっていること。また、よいことが重なり満足する様子。2015年、連日のノーベル賞受賞決定のニュースに日本中が沸いた。
(2015年10月13日)
選択肢と回答割合
えだたみ | 7% |
かさねがさね | 16% |
ちょうじょう | 77% |
嘖々
さくさく
(正解率 15%)人々が口々にほめるさま。「好評嘖々」などと使う。「悪評嘖々」は誤用とされているが、今はいずれにしても死語に近い。中国では嘖は評判の高さを表す擬音語という。
(2015年10月14日)
選択肢と回答割合
さくさく | 15% |
しゃくしゃく | 73% |
せきせき | 12% |
快哉
かいさい
(正解率 78%)「快なる哉(かな)」の音読みで、とても気分のいいこと。「快哉を叫ぶ」はうれしい出来事に接し喜びの声を上げること。「喝采を叫ぶ」は「快哉を叫ぶ」「喝采を博す」の混用だが、作家も間違えることがある。
(2015年10月15日)
選択肢と回答割合
かいえん | 6% |
かいさい | 78% |
かいや | 16% |
日々是好日
にちにちこれこうじつ
(正解率 66%)「日々」は「ひび」とも。「好日」は「こうにち」とも。毎日が平和なよい日であること。中国の禅の教科書「碧巌録(へきがんろく)」が出典。岩波文庫の注釈に「日常性のマンネリズムを突き破る感動」とある。
(2015年10月16日)
選択肢と回答割合
じつじつこれこうじつ | 20% |
にちにちこれこうじつ | 66% |
ひびぜこうび | 15% |
◇結果とテーマの解説
(2015年10月25日)
この週は「よいこと」。このテーマにした直接のきっかけは2015年のノーベル賞の連日の受賞決定です。
これについての記事で「ノーベル賞を受賞した」などと書かれた原稿を何度目にしたことか。まだ授賞式で正式に授与されていないので、それまでは「受賞が決まった」「受賞決定」が正しい表現です。
それはさておき、「連日のよいこと」という連想から「重畳」を出題漢字に選んだのですが、「単独のよいこと」でも使えないことはありません。時代小説などでは「それはよかった」という意味で「それは重畳」という使い方が多いのではないでしょうか。なお「日本国語大辞典」は「じゅうじょう」を見出し語に掲げているので、これを誤答の選択肢に挙げることができませんでした。もっとも使用例を見る限り歴史的に限られた用法。「重複」の読みとして「ちょうふく」「じゅうふく」がともにどの辞書にも載るほどの広がりはありません。
「日々是好日」は読みを読者が質問してきました。ちょっと答えにくい質問です。「ひびこれこうじつ」と言う人が多いと思います。国語辞典は「空見出し」として掲げ「にちにちこれこうじつ」に同じなどと誘導しているので、どちらかといえば「にちにちこれこうじつ」の方がよさそうです。しかし「誤り」としてではなく引く際の利便性を考慮したと思われます。「じゅうふく」を空見出しにして「ちょうふく」に誘導するのと同じことです。
また、出典の「碧巌録」の岩波文庫の訳をみると「にちにちこれこうにち」とルビがありました。同じ岩波文庫ですが、禅語のアンソロジー「禅林句集」にも「日々(にちにち)是(こ)れ好日(こうにち)」とルビがあります。つまり、禅宗ではこの読みが普通であることがうかがえます。本来「にちにちこれこうじつ」が正しいという根拠は薄いのです。「にちにちこれこうにち」→「にちにちこれこうじつ」→「ひびこれこうじつ」と変化している過程にあるのかもしれません。
「快哉」は、出題時の解説で「『喝采を叫ぶ』は『快哉を叫ぶ』『喝采を博す』の混用だが、作家も間違えることがある」としました。これは、百田尚樹さんのツイッターを念頭に置いたものです。「毎日新聞用語集」では「快哉」の項で注意を促しています。
この週で最も正解率が低かったのは「嘖々」。15%というのは相当低い数字です。誤答の「しゃくしゃく」は「余裕しゃくしゃく」を意識したものですが、これは漢字では「綽々」と書きます。
ところで物事が軽快に進むさまを「さくさくと進む」という使い方が最近増えています。いわゆるオノマトペで、漢字をあてることはできません。なお、毎日新聞用語集の前の版では「誤りやすい慣用語句」のページで「悪評嘖々→悪評高い、好評さくさく、名声さくさく」「『さくさく』は、言いはやすさま」とありました。改訂時、「いまこんな表現しないよね」「さくさくといえば、最近の使い方では別の語の『さくさく進む』が主流になっている」という声が多く、項目自体削除することに。日本国語大辞典には「私のやうな悪評嘖々たる人間が」という織田作之助の用例を載せていますが、作家も使っているから悪評さくさくも許されるという判断ではなく、あくまでも新聞での使用例がなかったという理由で、サクッと削ってしまいました。
このように、日本語はいつの間にか変わっていくので用語集や辞書の改訂はあまり時間をおかずに行わなければなりません。