「2戦全勝」のように、二つの物事について「全」と表現することをどう思うか伺いました。
目次
「違和感あり」が多数派
「ここまで名人が2戦全勝」「家族2人全員が感染」というように、「2」について「全て」とするのはどうでしょうか? |
問題ない 30.4% |
おかしくはないが違和感はある 55.3% |
おかしい。「全」は三つ以上の場合に使う 14.3% |
間違ってはいないんだけど、ちょっとなあ……と出題者同様に感じる人が半分以上を占め、最も多くなりました。ただし「問題ない」とする人も3割。積極的に排除すべき表現とは言えないようです。
2戦で「全勝」は「大げさ」との声も
マスコミ各社が参加する日本新聞協会の用語懇談会で尋ねてみたところ、次のような回答がありました。
・問題ない
・強調する文脈であればよい
・誤りではないが、大げさで不自然
・「2戦全勝」は使わないようにしている
「間違いではない」という部分では大方の一致を見ていますが、全く問題ないとする社から否定的な社まで濃淡があり、スタンスはまちまちでした。ちなみに「使わないようにしている」というテレビ局は、その理由を「大げさで、視聴者をあおりすぎるからではないか」と説明していました。今回のアンケートの選択肢で多くの人が選んだ「違和感」は、この「大げさ」から来ていると考えられます。「全」という言葉の強調効果を下手に使ってしまうと違和感を与えてしまうということでしょう。
1戦の重み次第で受け止め方に差も
逆から捉えて「1試合に重みがあり、強調する価値があると判断される場合はおかしくない」とする意見もありました。適切な場面で使えば大げさにならず、「全」の強調効果を生かすことができるというわけです。
例えばこんなケースがありました。バドミントンの大会で、3人1グループの1次リーグ戦を行い、「2戦全勝でリーグ戦を突破」と書かれた記事。これは「2戦全勝」に否定的な出題者からしても、それほど違和感がありません。2試合しかないため1試合に重みがあります。そして一つも負けずにリーグ戦を突破したことを強調するのはそれほど過剰でもないかな、とも思えるのです。
逆に、15日間取組のある大相撲で2日目を終えて「全勝」とするのはどうでしょう。ちょっと気が早くない?と感じる人も増えるはずです。
数よりも感じ方から判断を
とはいってもどう感じるかは個人差があります。「どんな場合でも『2戦全勝』には違和感がある」という考え方も、「どんなにたくさん試合があっても、そのうち2試合を切り取って『2戦全勝』といって問題ない」という考え方もおかしいとは言えません。さらに言えば、143試合を戦うプロ野球のペナントレースであれば、開幕3連勝したところで「ここまで3戦全勝」というのも大げさだと感じる人がいるのではないでしょうか。
2だから、3以上だから……などと分けて考えるよりも、「大げさじゃないかな?」という観点から、場合によっては使用を避けるぐらいがよいかもしれません。「2戦2勝」「2勝無敗」など言い換えは簡単です。
(2022年05月19日)
将棋の名人戦は第2局を終えて渡辺明名人が2勝。こういった場合にしばしば「渡辺が2戦全勝」などと書かれた原稿を見かけます。まだ2戦なのに「全勝」?と個人的には違和感を覚えます。▲しかし「全て」は「ある範囲にふくまれるものを、まとめてさすことば」「一つ残らず。ことごとく」という意味(三省堂国語辞典8版)。含まれる要素がいくつだとかいうことよりも、例外がないこと、100%であることに意味の主眼があります。2分の2を「全部」といって間違いではありません。▲とはいっても「一人残らず、全員が賛成した」と言われた後に「実はメンバーは2人でした」と種明かしをされたら、やはり肩すかしを食らったような気になる人もいるのではないでしょうか。別の表現を模索すべきか、ご意見を伺いたいと思います。
(2022年05月02日)