「風呂おけ」という言葉をどう使うか伺いました。
目次
過半数は「小型のおけ」
「風呂おけ」といったら何を指しますか? |
風呂で使う小型のおけ 54.5% |
浴槽 29.8% |
上のいずれにも使う 15.7% |
「風呂おけ」といったら「小型のおけ」のことだとした人が過半数に達しました。風呂おけといえば「浴槽」のこと、と思っていた出題者と同様の人は3割にとどまりました。
万能川柳に「ケロリンの風呂桶」
毎日新聞の人気コーナー、万能川柳で最近こんな句が載りました。
ケロリンの風呂桶(おけ)どこで売ってます?(マー坊)
ケロリンのおけは、銭湯に行ったことのある人なら見たことがあると思います。黄色いプラスチックの小型のおけで、富山めぐみ製薬(内外薬品の後継会社)の解熱鎮痛薬「ケロリン」の広告が入っていることでおなじみです。
出題者はこの句を見て、小型のおけは「手おけ」であって、風呂おけといったら浴槽のことだろうと考えていたためちょっと驚きました。しかし、この句には当該欄で後日、「マー坊さんケロリン風呂桶持ってます」(まりんば)という返信もついており、風呂おけといったら手おけのことを指すのが主流なのかと気になりました。
いずれも「おけ」ではなくなったが…
風呂おけが浴槽のことを指すのは、かつての浴槽がおけだったからです。国語辞典で風呂おけの項目を見ると、まず「①木を桶状に組んで作った湯船。浴槽」(大辞林4版)といいます。今の浴槽は「おけ」という言葉が本来指す、木を組んでタガをはめて作ったものではないのだから風呂おけというのはおかしい、と感じるでしょうか。しかし「棺おけ」だって今はおけではありませんが、呼び方は残っています。
辞書には加えて「②浴場などで用いる小さな桶。また、洗面器。湯桶」(同)という説明もあります。こちらも、日本国語大辞典(2版)の用例を見る限りでは新しい用法というわけではなさそうですが、青空文庫に載る近代文学作品では「風呂おけ」といえば基本的に浴槽を指しています。なおかつ、こちらも本来の木製の「おけ」とは異なるプラスチック製のものになっていますが、アンケートの結果からも見る通り、昨今ではこの小型のおけとする意味が主流になってきているようです。
注釈の必要な時代が来るかも
「毎日ことば」のアンケートでは、「歯磨き粉」や「VTR」のような、旧来の名称と現在の製品がずれているものについてどう感じるを取り上げたことがありますが、「風呂おけ」の場合は、徐々に旧来の用法が忘れられつつあるのかもしれません。しかしこの言葉が、すっかり小型のおけのこととして定着してしまったなら、「三四郎は着物を脱いで、風呂桶の中へ飛び込んで、少し考えた」(夏目漱石「三四郎」)のような文章を読んだとき、何のことだかピンとこない、という人が多くなるかもしれません。「風呂おけ」にも注釈の要る時代が来るのでしょうか。
(2022年04月22日)
最近は風呂で使う小型のおけについても「風呂おけ」と呼ぶ場合があると知り、へーっと思いました。出題者は風呂おけといえば浴槽のことだと考えており、温泉などにある小さなおけについては単に「おけ」か、あるいは「手おけ」と呼んでいたからです。▲しかし改めて国語辞典を引いてみて、「風呂桶(おけ)」の項目に「浴場などで用いる小さな桶」(日本国語大辞典2版)という意味が載っていることを知り二度びっくり。日国には江戸時代の俳諧の用例が出ています。▲こうしてみると単に「最近は……」とは言い切れない印象を持ちますが、もし最近になって「小型のおけ」の意味で使われることが増えているとすれば、ユニットバスの普及で浴槽の形状が「おけ」から遠ざかっているせいかもしれません。皆さんにとって「風呂おけ」はどちらを指しますか?
(2022年04月04日)