「おもねて」と「おもねって」のどちらを使うかをうかがいました。
目次
4分の3は「おもねって」を選択
政治家が有権者に「おもねて/おもねって」いる――。どちらを使いますか? |
おもねて 21.4% |
おもねって 73.1% |
どちらでもよい 5.6% |
「おもねって」を選んだ人が多数派になりました。「どちらでもよい」を含めると「おもねて」を使う人も3割弱おり、こちらの言い方もある程度広まってはいますが、文法的に正しいといえる「おもねって」を使う方が無難だといえそうです。
本来の形は「おもねって」
国語辞典の説明を振り返ってみます。明鏡国語辞典3版は「『おもねず』『おもねて』『おもねた』など、下一段に活用させて使うのは誤り。『おもねらず』『おもねって』『おもねった』とする」としており、三省堂国語辞典8版は「『おもねない』『おもねて』など、下一段にも活用する」と記述しています。
明鏡が下一段活用ではないと指摘しているように、「おもねる」は本来、五段活用の動詞です。「て」が後に続く場合、動詞は連用形をとるため、連用形「おもねり」+「て」と接続します。古語では「おもねりて」が使われていましたが、現代語では発音のしやすさから「おもねって」と促音化した形が使われています。よって文法から考えると「おもねって」が正しい表現になります。
「おもねて」は「おもねる」を下一段の動詞として捉え、連用形「おもね」+「て」としてしまったために生まれた形だといえるでしょう。
「下一段にも活用する」とは
このように考えると、「おもねって」が正解で、「おもねて」は誤用である――と結論づけたくなりますが、三国の「下一段にも活用する」という説明が気になります。なぜ「おもねる」は下一段の用法が広まったのでしょうか。
実は、五段なのか下一段なのかの見分け方を文法的にきちんと説明するのはなかなか難しいです。下一段になりうる、「る」の前が「エの段」で終わる動詞について考えてみます。
「おもねる」以外にも「返る」「帰る」など、「エの段」であっても五段活用の動詞は存在します。しかし、多くは「出る」「上げる」「損ねる」「束ねる」などのように下一段に分類されます。「返る」「帰る」と同じ音の「変える」も、「変え」+「て」と活用することからわかるように下一段です。似た音の動詞のほとんどは下一段であるため、「おもねる」は下一段だと誤解されやすいのでしょう。
もう一つ、送り仮名の文字数で判断するという方法もあります。「返る」「帰る」のように送り仮名が「る」だけの場合は五段、「変える」のように「エの段」が送り仮名に含まれる場合は下一段といった具合です。確かに「おもねる」は漢字で「阿る」と書くので、こちらのルールには当てはまります。しかし、この方法にも例外はあり、「出る」「得る」などは下一段ですし、「病気でふせる」の「臥せる」は五段です(「とっさに地面に伏せる」の「伏せる」は下一段です)。
紛らわしいのは仕方なし
このように、五段か下一段かを明快に区別するパターンというものはなく、何とも紛らわしい限りです。「臥せる」も連用形は「ふせっ」+「て」ですが、「伏せる」に引きずられるためでしょう、「おもねて」と同様に「ふせて」とよく間違えられます。いずれも最近ではあまり使われないことばなので、他の動詞に活用が引きずられても無理はないのかもしれません。
(2022年04月08日)
「促音が抜け落ちて『おもねて』になってしまっている!」。紙面の降版(締め切り)時間が過ぎ、ようやく一息つけるかと思っていた時に、社内のどこからかそんな声が上がりました。原稿を読んだ際には「おもねて」に違和感を持たなかったのですが、言われてみると「おもねって」の方が適切な気もしてきます。▲すぐに国語辞典で調べてみました。誤用表現に厳しいとされる明鏡国語辞典は、「おもねて」は誤りで「おもねって」とすべきだとしています。一方、言葉の新しい使い方も積極的に紹介する三省堂国語辞典は、「おもねて」とも活用すると説明しています。▲どちらかといえば「おもねって」の方が口語的な印象があったのですが、文法的に考えてみるとこちらが本来の言い方であるといえます。毎日新聞の用語集を開いてみると、恥ずかしながら「連用形は『おもねり・おもねっ(て)』」という注がありました……。「おもねて」は脱字というわけではないものの、「おもねって」の方がよいだろうということで、次の締め切りに向けて「おもねって」に直しました。▲三国の記述のように、「おもねて」が使われることも増えているように思うのですが、みなさんはいかがですか?
(2022年03月21日)