「今ほど」という言葉について伺いました。
目次
「おかしい」が大多数占める
「今ほど」お届けしました――「先ほど」「後ほど」の仲間のようですが、いかがでしょうか? |
「今ほど」で通じるし、問題ない 3.7% |
「今ほど」で通じるが、「今し方」などの方がよい 18.2% |
「今ほど」はおかしいと感じる 78.1% |
「今ほど」は「おかしい」と感じる人が大多数を占め、8割に迫るという結果に。意味が通じないという言葉ではないと思いますが、多くの人にとってなじみの薄い言い方であることは確かなようです。
文章語とは言えないが
「先ほど」や「後ほど」は、文章ではあまり使われない言葉です。現在を起点とした過去や未来について触れる言葉なので、基本的には口頭でのやり取りに用いられるもので、客観的な文章では使う場面が少ないのです。この点は「今ほど」も同様でしょう。ただし現在は、リアルタイムで他人と共有するチャットやグループウエアでは使用することもあると思います。こうした書かれるはしから押し流されてゆくような言葉たちは、口頭表現に寄っているとも言えるでしょうか。
「つい先ほど」(大辞泉2版)という意味の「今ほど」も、最近見かけたのはやはり会社のグループウエアでのやり取りにおいてでしたが、出題者にとっては見慣れない表現だったのでこうして質問として取り上げた次第です。なじみのない表現だとしても、それは自分にとってだけかもしれませんし。ただし、今回のアンケートの結果から見るに、「今ほど」は皆さんにとってもなじみの薄いものであるようです。
西村賢太さんの「今程」
ところで、文章では使う場面が少ないとしましたが、毎日新聞の過去記事で質問文のような「今ほど」(記事中では「今程」)を1件見かけました。先ごろ亡くなった作家、西村賢太さんが芥川賞を受賞したときに寄せた、受賞の感想を記した文章です。せっかくですので長めに引用すると
候補になることをよろこんで受けておきながらで言うのもなんだが、土台、自分のケチな私小説なぞ、かの賞には到底相応(ふさわ)しいとも思えない。所詮新人賞に過ぎぬとは云(い)え、何か内実の伴っていない虚(むな)しさがあり、これが素直なよろこびの発露をさまたげているような感じだったのである。
しかし、今程出来上がったばかりの受賞作の単行本が届き、封を開いた途端に状況は一変した。本の帯にデカデカと刷られた<芥川賞受賞>の黄色い文字に、初めて自分も「芥川賞作家」の列に加わったとの実感が湧いてきた。
いわゆる饒舌(じょうぜつ)体の文章におさまってみると、そんなに違和感のある言い回しにも見えないのですが、いかがでしょうか。「先程」でも「今し方」でもよい場面ではありますが、「今程」もしっくりなじんでいると感じます。
ニュアンスのある表現
校閲センターのツイッターには、
明鏡国語辞典で、「先程」は「さっき」の品格語、「後程」は「後(あと)」の品格語として紹介されているけど、“今ほど”にも品格があるのかな?
というコメントが寄せられました。明鏡国語辞典3版には「品格」という参考情報があり、「改まった場面でも使える品格のある類語」を紹介しているのですが、「さっき」「あと」の「品格」欄に「先程」「後程」が挙げられています。
また、ツイッターには
「今ほど」は「つい先ほど」より「音」として柔らかで(「つ」が硬いし、「つい」では意味が強調される)、上品に感じます。
とのコメントも。「今ほど」の場合、意味としては「つい先ほど」「今し方」でよくとも、相手に対して少し語調を和らげるような言い回しとして、まるでおかしいものではないのだろうと考えます。
もっともアンケートでは「おかしい」とした人が8割近くを占めたのも事実です。使い方や使う場面には気を使った方がよいのかもしれません。
(2022年04月05日)
最近、質問文のような「今ほど」の使い方を見て、どういう用法なのかと気になりました。「先ほど」よりは今に近く、「たった今」というには少し時間が経過した、というところでしょうか。▲一般的には「今し方」がよく使われると思いますが、青空文庫を検索していると泉鏡花「夜叉ケ池」に「貴客(あなた)、今ほどは」と、すぐ前の出来事に触れるせりふがありました。これは問題文のような使い方と言えそうです。日本国語大辞典には「この頃。近頃。今どき。現在」という意味での用例が見られますが、他にも「つい先ほど」という意味が示されています。▲こうしてみると、昔は使われていたものの、現在は廃れた言い回しなのかもしれません。「先ほど」や「後ほど」が、近い過去や近い未来を漠然と示すのに重宝されているのに比べると、「今ほど」は使い勝手がよくないということでしょうか。「今」といっても結局は直近の過去を示す語なので、「つい先ほど」と言えば済むということもありそうです。皆さんはいかがでしょうか。
(2022年03月17日)