読めますか? テーマは〈妖怪〉です。
目次
姑獲鳥
うぶめ
(正解率 66%)「こかくちょう」とも読む。「産女」とも書くうぶめは難産のため死んだ女の幽霊。「姑獲鳥」は中国に伝わる夜行性の妖怪だが同一視されるようになった。京極夏彦著「姑獲鳥の夏」で有名に。なお忠臣蔵の裏話である「東海道四谷怪談」の初演では「お岩」の亡霊は赤子を抱いた産女(うぶめ)の姿だった。
(2015年12月14日)
選択肢と回答割合
うぶめ | 66% |
ぬえどり | 23% |
かるら | 11% |
魍魎
もうりょう
(正解率 90%)人の亡霊や物の精霊で、死者を食べる妖怪ともいう。水木しげるさんの短編漫画に「妖怪魍魎の巻 死人つき」がある(ちくま文庫「妖怪たちの物語」所収)。京極夏彦さんの小説は「魍魎の匣」。一般的には「魑魅魍魎」の形で知られる。
(2015年12月15日)
選択肢と回答割合
ちみ | 7% |
もうりょう | 90% |
きき | 3% |
目々連
もくもくれん
(正解率 59%)廃屋などの障子に無数の目を現す妖怪。鳥山石燕の「今昔百鬼拾遺」に描かれる。水木しげるさんの娘が修学旅行先で見たという。
(2015年12月16日)
選択肢と回答割合
めめづれ | 35% |
めめれん | 6% |
もくもくれん | 59% |
寒戸の婆
さむとのばば
(正解率 19%)「さむとのばんば」ともいう。岩手県遠野市の寒戸という所で神隠しに遭った娘が、30年余り後の風の強い日に年老いた姿で現れる。柳田国男「遠野物語」で有名な神隠しの伝説だ。ただし寒戸という地名は実在しない。水木しげるさんの「妖怪画談」では涙をうかべている。
(2015年12月17日)
選択肢と回答割合
さむとのばば | 19% |
かんどのばば | 47% |
かんべのばば | 34% |
鎌鼬
かまいたち
(正解率 96%)突然、刃物で切ったような傷ができる現象。冬の季語。昔イタチの妖怪の仕業と考えられた。現在も、風によってできた真空によるとする説のほか、いろいろな原因が語られる。
(2015年12月18日)
選択肢と回答割合
かまいたち | 96% |
かまむささび | 3% |
かまくら | 1% |
◇結果とテーマの解説
(2015年12月27日)
この週は水木しげるさんをしのんで「妖怪」をテーマにしました。
水木しげるロードの「姑獲鳥」像/by 京浜にけ |
「姑獲鳥」は当て字の最たるものでしょうが、それでも3人に1人が正解したというのは、京極夏彦さんの小説「姑獲鳥の夏」、およびそれを原作とする映画の影響といえましょう。この映画の最後に片腕の傷痍(しょうい)軍人が出てくるのですが、演じるのは原作者の京極夏彦さん本人で、水木しげるさんへのオマージュとなっています。ちなみに監督は「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で強烈な印象の異色作を演出した故・実相寺昭雄さんで、キャストも豪華でした。それはともかく、なぜ中国由来の「姑獲鳥(こかくちょう)」と日本の「産女(うぶめ)」が混同されたのか。小説の主人公、京極堂秋彦は「赤ん坊は水鳥のような声で啼く」としたうえで、
「つまりね、男が見るウブメは〈女〉、女が見るウブメは〈赤ん坊〉、そして音だけのウブメは〈鳥〉なんだよ」
と、見られる方よりも見る主体を問題にします。今思えばこれはこのミステリーの驚き(あきれる)トリックの伏線というべきせりふです。
鳥山石燕「今昔画図続百鬼」より |
「魍魎」も京極夏彦さんの「魍魎の匣」が映画になりました。それとは直接関係ないのですが、水木しげるさんにも「もうりょう」が出てくる漫画があります。「妖怪魍魎の巻 死人(しびと)つき」(ちくま文庫「妖怪たちの物語」所収)。この話はソ連映画「妖婆 死棺の呪い」とそっくりです。土俗的でどこか素朴なユーモアが漂う妖怪映画で、水木さんの世界観と相通じるところが多いのです。
鳥山石燕「今昔百鬼拾遺」より |
「目々連」。繰り返し符号を使いましたが、本では「目目連」となっているものが多いようです。水木さんの訃報を受けた毎日新聞のコラム「余録」で紹介されました。
水木しげるロードの「寒戸の婆」像/by京浜にけ |
「寒戸の婆」は柳田国男「遠野物語」で語られますが、寒戸という地名はないとのこと。柳田国男の聞き違いか誤植ともいわれます。神隠しに遭った娘が老いさらばえた姿で現れ「人々に逢いたかりし故帰りしなり。さらばまた行かん」と言ってまたいなくなるという、妖怪というにはかわいそうな話。水木さんは岩波新書の「妖怪画談」や漫画「水木しげるの遠野物語」で、涙を流した姿で描き「物悲しい」とコメントしています。なお柳田国男は特に寒い冬に現れるとしていないのですが、水木さんは寒い風の日として描いています。「寒戸」という字のイメージからかもしれません。
竜斎閑人正澄 画「狂歌百物語」より |
「鎌鼬」は今回最もよく知られた言葉と思っていましたが、はたして正解率は最も高くなりました、「構い太刀」からきたという説もあるようですが、いまだに謎が解明されていない現象です。京極夏彦さんの「魍魎の匣」によると、北国の魍魎、西国の河伯(河童)と並んで東国の鎌鼬が江戸期の「本朝三奇」に挙げられたそうです。
ちなみに「妖」は2010年にやっと常用漢字になりました。この字をポピュラーにした第一人者はいうまでもなく水木さんです。いまどこでどんな妖怪と会っていることでしょう。冥福を祈るという言葉が似つかわしくないほど、あちらの世界でも楽しんでいる姿が想像できます。そういうところが水木さんらしいですよね。