「フルスペック」という言葉の使い方について伺いました。
目次
「何となく分かる」が計6割
手続きや制度などについて、時に「フルスペック」の○○と言われますが――カギの中、意味は分かりますか? |
十分理解できる 14% |
何となく分かる。説明は不要 23.4% |
何となく分かるが説明が欲しい 37.8% |
分からない。日本語で言い換えてほしい 24.8% |
「フルスペック」という言葉を手続きや制度などについて使う場合、はっきり「分かる」と答えた人は1割台、「分からない」と答えた人は4分の1。多数派だったのは、説明の要不要で分かれる部分はありますが、「何となく分かる」という人で6割程度を占めました。もしかすると使う側も「何となく」使っている語なのかもしれません。
「スペック」は「仕様」のこと
この「フルスペック」という言葉を載せている辞書はあまりありません。大辞泉2版は「フルスペックハイビジョン」を載せながらも「フルスペック」は載せませんでした。もっとも「フルスペックハイビジョン」も、中身は「→フルハイビジョン」というカラ項目で、「フルスペック」についての説明はされていません。
書籍版の国語辞典で唯一「フルスペック」を載せていることが確認できたのは大辞林4版。「〔和 full+spec〕仕様や条件などが、最上の状態」と説明しています。「和」は和製英語のこと。またネット上で見られる「デジタル大辞泉」は「《full specificationから》現時点で備えうるすべての機能を備えていること。また俗に、高機能であること」としています。specはspecificationの略。「仕様書」「仕様」といった意味です。
選挙に使いたい?「フルスペック」
回答から見られる解説では、最近「フルスペック」が使われていた例として自民党の総裁選を挙げましたが、野党第1党の立憲民主党の代表選でも「フルスペックの代表選を」という声が出たようです。どういうことか。毎日新聞の記事には「党員参加型の『フルスペック』で実施……」とあり、その後に詳しい実施方法が記されています。
自民党で安倍晋三元総裁が降板した際、あるいは立憲が旧国民民主党と合流した際の総裁選・代表選では、いずれの党も党員による直接投票は行いませんでした。そうした簡略化をせずに、党員らの投票など本来取るべき手続きを最大限取る、というのが「フルスペック」の意味合いのようです。
「本来の手続きにのっとった選挙」とでも言えばよさそうなものですが、そうはっきり言うと、簡略化した選挙の正当性に疑問符が付きそうに感じられるのかもしれません。「フルスペック」という言葉の方が角が立たないという発想はありそうです。
曖昧に使われがちか
もっとも、そうした明確な意図はなく、誰かが使っているのを聞いて何となく使い勝手のよい言葉と感じ、また何となく使っている、というのが実態かもしれません。アンケートの結果では「何となく分かる」という人の中でも「説明が欲しい」という人が多数派でしたが、それはこの言葉が曖昧に使われているから、ということでもあるでしょう。
総裁選や代表選にまつわる記事を見た感じでは、「フルスペック」という言葉で「簡略化しない」ぐらいの意味は伝わるように思いましたが、具体的な内容については別途説明しなければならないようです。日常的に使う場面が想定される言葉ではありませんが、はっきりした意味を伝えたいのであれば、最初から他の言葉を使うことをおすすめします。
(2021年12月07日)
「フルスペック」というカタカナ語が毎日新聞の紙面に初めて登場したのは1992年。「今年に入り、(中略)簡易型〔のハイビジョンテレビ〕が発売されたほか、低価格のフルスペック版も近く登場する」とあります。ここでの「フルスペック」はテレビの性能についての言葉で、「性能を落としていない、完全な」というほどの意味でしょう。▲時は下って2015年、安保法制を巡る国会審議の記事で「自民党はフルスペックの集団的自衛権を憲法改正で認めようとしている」という野党の発言が見られます。この場合の「フルスペック」は「完全な、欠けるところがない」というところでしょうか。▲最近では自民党の総裁選を巡り「フルスペックでしっかりした総裁選をやらなければ」のような発言が見られました。この場合は「手続きを簡略化したものではなく、所定の条件を満たす(党員・党友投票を含む)」総裁選といった意味で使われていたようです。▲元々は家電などに使う言葉として生活に入ってきたものが、徐々に拡張して使われてきているようです。パッと見たところ難しい印象を受ける言葉ではないのですが、意味が伝わりやすい言葉かというと疑問符が付くようにも感じます。皆さんの受け止め方はいかがでしょうか。
(2021年11月18日)