「知り合う」を漢語で言い換えるならどのような語がよいか伺いました。
目次
言い換えの難しさが示される
SNSで「知り合う」――カギの中、漢語ならどんな言葉がなじみますか? |
面識 21% |
接点 31.3% |
遭遇 11.1% |
その他/ぴったりする漢語はない 36.6% |
普通なら「知り合う」と言えば済むことをあえて漢語で言い換えるならどうするか――出題者の思いついた選択肢があまり良くなかったのか、「その他/ぴったりする漢語はない」が最多でした。言葉を示した中では、出題者が良いと思った「接点」が最多、続いて「面識」「遭遇」という順でした。
「面識」は「顔」を知ること
今回のアンケートのきっかけになったのは、SNSで知り合った関係から起きた事件を報じた記事。記事を紙面に割り付けたり見出しを付けたりする整理記者は「SNSで面識」という見出しを付けました。
しかし、SNSで「面識」というのには違和感がありました。基本的に「面識」は顔を合わせて知り合うという意味ではないか。「互いに顔を知っていること。知り合いであること」(大辞泉2版)という意味を見ると、SNSでつながることを指すのには今ひとつと感じます。もちろん、後に実際に会ったのですから顔写真の交換ぐらいはあったと思われますが、それは知り合った後の話になるのではないでしょうか。
「邂逅」や「遭遇」は驚きを含む
「知り合う」を類語辞典(「角川類語新辞典」)で引いてみると、付近には「面識」も並んでいます。しかし、カテゴリーとしては「認識」の部分に置かれているので、社交的な意味での類語はあまり見られません。「交際」の分類を見ると「接触」、「出会い」の分類には「邂逅(かいこう)」「遭遇」といった言葉が挙げられています。
「邂逅」は「思いがけなく出あうこと」(大辞泉2版)、遭遇は「不意に出あうこと」(同)で、いずれも驚きのニュアンスがあるのですが、SNSでの出会いにそうした含意はあまり合わないと感じます。また「邂逅」は常用漢字の範囲外なので、新聞では使いにくい語です。「接触」は「他の人と交渉をもつこと」(同)と、交際に関する意味では色が薄い印象で使いやすく感じますが、自ら特定の相手に働きかける意味合いを感じ、やはりSNSのようにたまたま声を掛け合う場面とは合わない感じもします。
「ふれあう」ニュアンス持つ「接点」
そこでより色を薄くしたのが「接点」ではないか――と出題者は考えたのでした。「接点」は「異なる物事がふれあう点」(同)という説明からも分かるように、「知り合う」に近い含意が感じられます。実際に同じ事件を扱った他紙のウェブサイトの見出しで「接点はSNS」としているものもありました。
しかしそれでも、「その他/ぴったりする語はない」という選択肢を上回ることはできず、やはり言い換えは難しいものだと感じます。とはいえ、SNSをきっかけにした事件は、残念ながら今後もきっと起こることでしょう。その時になって紙面制作でうろたえることがないように、普段から言葉の引き出しは多くしておかなければならないと改めて考えさせられました。
(2021年10月05日)
インターネットの普及に伴って、ネットを通じて知り合った人の間で起きる事件が目につくように。先日報じられたそんな事件では、ツイッターを通して知り合った被害者と容疑者について「SNSで面識」という見出しがついたのが気になりました。
「面識」という見出しは「面識(を得る)」という趣旨で付けられたものですが、その省略を読者に推測してもらうという点で、あまりよい見出しとは言えないと感じます。加えて「面識」を辞書で引くと「互いに顔を知っていること。知り合いであること」(大辞泉2版)とあるように「顔を知っている」ことに重点が置かれる表現で、ツイッターのようなまず短文でやり取りをするSNSになじむかも微妙です。
当日は結局よい代案を思いつくこともできず、そのままの見出しになったのですが、後になってから「接点」ぐらいがよかっただろうか、と考えました。これも「接点(を持つ)」という省略含みの表現ですが、人と人がたまたま結びつくSNSの世界には合うように感じます。
今後も似たような事例に出合うことはあるはずで、ここで皆さんの意見を伺って参考とさせてもらうことには意味があると考えています。ほかにもっとよい表現があるという場合には、校閲のツイッターに返信をつけていただければありがたく存じます。
(2021年09月16日)