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目次
手薬煉
てぐすね
(正解率 81%)薬煉とは、松ヤニなどを煮て練ったもので、弓の弦に塗り滑り止めにする。転じて、十分準備して敵を待ち構えることを「手ぐすね引く」という。
(2016年10月11日)
選択肢と回答割合
てだれ | 18% |
てぐすね | 81% |
くすりゆび | 2% |
神に入る
しんにいる
(正解率 53%)技術などが神がかっているほど優れていること。同じ意味で広島カープの緒方孝市監督は「神ってる」という言葉をはやらせた。広島弁なら「神っとる」になりそうだが。
(2016年10月12日)
選択肢と回答割合
しんにいる | 53% |
かみにはいる | 9% |
ごうにいる | 38% |
空手の「形」
かた
(正解率 91%)空手の種目。1人で演じ技の正確さなどを採点する。これとは別に空手には格闘技の「組手」がある。空手は2020年東京五輪の競技に初めて選ばれた。
(2016年10月13日)
選択肢と回答割合
かた | 91% |
かたち | 1% |
なり | 8% |
体を躱す
たいをかわす
(正解率 58%)身を翻して相手の攻撃などを避けること。新聞では「かわす」と仮名書きにする。「交わす」の誤字に注意しなければならない。
(2016年10月14日)
選択肢と回答割合
たいをかわす | 58% |
からだをさらす | 10% |
ていをなす | 32% |
◇結果とテーマの解説
(2016年10月23日)
この週は「スポーツ」がテーマ。スポーツの秋です。
まずはおわびです。「手薬煉」の出題時の解説で、当初「薬煉とは松ヤニなどを煮て練ったもので、弓の弦に塗り滑り止めにする」と記していたのですが、これは不正確でした。読者のご指摘を受け、後半部分を「弓の弦に塗って補強したり手に塗って滑り止めにしたりする」に直しています。主に参照した資料に「補強剤(すべり止め)」とあるのを読み違え、補強剤の方を無視してしまったのです。申し訳ありません。
なぜ「滑り止め」の方を選んでしまったかというと、弓道よりも野球に理由があります。投手が滑り止めに使う袋「ロージンバッグ」というのがありますが、あれには松ヤニが入っているそうです。杉本つとむ「語源海」(東京書籍)の「てぐすねをひく」の項には「ロジン・バッグ(rosin bag)のロジンがテグスネ、原義は松脂(まつやに)のこと」とあります。その記述が頭を離れなくて、滑り止めの機能の方のみ書いてしまった次第です。
さて野球といえば、2016年は何といっても広島カープの25年ぶりのリーグ優勝が一番のニュースでした。緒方監督がしばしば発した「神ってる」は、
緒方監督の発明ではなく、既に一部で言われていたことです。近ごろ何でも「神(かみ)」をつけて「すごい」ことを表す風潮がありますが、伝統的には「しん」と読む慣用句もあります。ということで「神に入る」を出題したところ、この週で最も正解率が低くなりました。空手の「形」は簡単でした。空手というと2人で闘うイメージが強く、1人で演舞する形というのは知られていないのでは、また「型」と違って「かたち」と読む人が多いのでは――と踏んでの出題でしたが、意外に有名なのかもしれません。
「体を躱す」。「神に入る」の「神」と同じく慣用句としては「体」は音読みです。「躱す」は「交わす」の誤字に要注意と出題時に記しましたが、実は辞書では「交わす」と同源とされています。とはいうものの今では「追いすがる相手の攻撃を交わして勝利」などは誤字と見なされます。
「かわす」で注意すべきなのはそれだけではありません。日本新聞協会新聞用語懇談会放送分科会編「放送で気になる言葉2011」には「かわす」が「変わりつつある言葉」として挙げられています。それには
①「追いすがるライバルをかわして首位を守った」
②「強豪を次々にかわしてトップに立った」
と、ともに「かわす」を使いながら順位が違ってしまう例が挙げられています。
「かわす」は「体(たい)をかわす」「切っ先をかわす」のように、もともとは素早く身をよける動作を指す言葉だ。そこから使用範囲が少し広がって、体は動かさなくても、正面からの対決を避ける、攻撃をそらす、といった意味にも使われている。(中略)
問題は例文の②だ。視聴者からの質問や苦情もこの使い方に多い。だが、NHKの2000年「ことばのゆれ全国調査」では、②の用法を「おかしい」と感じた人は19%で、「おかしくない」が65%だった。『日本国語大辞典』(第2版)や『現代国語例解辞典』(第4版)には「追い抜く」の意味を採録している。
しかし、「AがBをかわした」が、①と②では意味が反対になる。使う場合は、誤解のないようにしなければならない。(中略)
例文②の場合に「かわす」を使うのは許容範囲だが、この場合「強豪を次々に追い抜きトップに立った」でよい。
②を「許容範囲」としつつ言い換えを勧めているのはやや奇異に思われるかもしれません。しかしこれは、違和感を持たない人も多いが、本来の意味でとらえ「あれっ」と思う人が一定程度いる可能性を思えば、言い換えが無難であることを示しているのでしょう。
確かに用法が変わりつつあること自体知らず使ってしまうこともありますが、せめて校閲は使い方に敏感でありたいものです。