「ささる」という言葉の表記について伺いました。
目次
6割が「挿さった」を選ぶ
ストローが「ささった」紙パック――どう書くのがなじみますか? |
刺さった 17.8% |
差さった 10.7% |
挿さった 61.4% |
場合によって使い分ける 10.1% |
「ささる」という言葉の漢字表記で、常用漢字表に記載があるのは「刺さる」のみですが、回答は6割を超す人が「挿さった」を選びました。「ささる」は「さす」の自動詞の形として使われますが、意味として「とがった物が突き立つ」だけでは済まされない場合もあると、多くの人が考えていることが分かります。
「さす」と「ささる」の関係
ほとんどの国語辞典で「ささる」は「先のとがったものが突き立つ。『とげが―・る』」(広辞苑7版)のように説明され、表記は「刺さる」のみが挙げられています。この「刺さる」という自動詞は、他動詞「刺す」から派生したもののようです。
「はさむ/はさまる」「つなぐ/つながる」などが「他動詞+aru」の形を取って自動詞になるのと同様に「刺す/刺さる」の関係も考えることができます。「とげを刺す/とげが刺さる」という具合です。
一方で「さす」という言葉は多様な意味で使われるため、表記にもさまざまなものがあります。常用漢字表で訓読みが認められているものだけでも「刺す」のほかに「指す」「挿す」「差す」があり、他にも「射す」「注す」などが考えられます。これらの場合については「さす/ささる」という形は及ばないのでしょうか。
違和感小さい「花が挿さっている」
「指す」は難しそうです。「北を指す」とは言えても「北が指さる」とは言えません。「鍵穴に鍵を差す」はどうか。「鍵穴に鍵が差さる」はあまり見慣れないようです。しかしこれが「鍵が差さっている」だと、急に問題なさそうに見えてきます。「花瓶に花を挿す」の場合も「花瓶に花が挿さる」は何だか違和感がありますが、「花が挿さっている」はぐっと違和感が小さくなるのではないでしょうか。
どうも動作を表す言葉として「さす/ささる」を見た場合には「刺す/刺さる」以外は使いにくいようですが、状態を表す言葉として見ると「差す/差さる」「挿す/挿さる」も考慮に入れる必要があるのではないかと感じます。「グラスにストローが挿さる」とは言いにくいにしても、「ストローの挿さったグラス」は容易にイメージできてしまいます。
「ストローが『ささった』紙パック」も、「紙パック」の様子を表す修飾語として「ささった」が使われており、この場合には「差さった」「挿さった」も選択肢に入れて差し支えないと考えるべきでしょう。
「突き立つ」以外の意味もあり得る
回答から見られる解説でも引きましたが、日本国語大辞典2版は見出し語の表記としては「刺さる」を採用しているにもかかわらず、用例としては夏目漱石「彼岸過迄」の「夫(それ)から上り口の土間の傘入に、僕の洋杖(ステッキ)が差さってゐる筈(はず)です」というものを挙げており、「差さる」の表記が目を引きます。
語釈は「とがった物が他の物に突き立つ。また、棒状のものが器物などの中に立ててある」とあり、ストローや花の茎、ステッキのような「棒状のもの」が紙パックや花瓶、傘入れといった「器物」に「ささる」こともあり得ることを認めています。
そしてこの場合には「刺」という「先が鋭いものを使って、ある一点を突き破る」(円満字二郎「漢字の使い分けときあかし辞典」)という意味を持つ文字よりも、「細長いものをすきまに入れる」(同)という意味の「挿」や、「さまざまな意味の『さす』を書き表すのに使っても、違和感がない」(同)という「差」がなじむと考えられたとしてもおかしいとは言えないでしょう。
「挿さる」も認められるべきでは
アンケートでは6割という多数の人が「挿さった」を選びました。この人たちが仮に辞書で「ささる」を引いたとしても、表記としては「刺さる」しか見つけることができず、「挿さる」は「間違いかな?」と感じるかもしれません。
しかし、ここではたとえ辞書に載っていなくても「挿さる」という表記には根拠がないわけではなく、使い分けの選択肢として考えられると申し上げたいところです。
(2020年06月09日)
漢字の表記が気になる人にとっては、「さす」というのも使い分けに悩む言葉ではないかと思います。刃物なら「刺す」、花なら「挿す」、刀を腰に挟むのは「差す」などなど。ではストローと紙パックなら?
――と書きましたが、ここで伺うのは「ささる」。実はこの場合、常用漢字表で認められている表記は「刺さる」だけです。「挿す」「差す」はあっても「挿さる」「差さる」はありません。というわけで、答えは「刺さる」です――と言えれば話は早いのですが。
「ささる」という言葉がそもそも「先のとがった物が他の物に突き立つ」(大辞泉2版)という場合にしか使えないのか。日本国語大辞典2版には夏目漱石の「彼岸過迄」から「土間の傘入に、僕の洋杖(ステッキ)が差さってゐる筈(はず)です」という用例が載っていますが、十分に細い物であれば、とがっていなくとも何かに「ささる」場面は考えられるはずでしょう。日国は「棒状の物が器物などの中に立ててある」という説明も載せているのですが、そうしたときにも「刺さる」以外の表記はあり得ないのか。
ここでは皆さんにとって、なじみやすい書き方を伺います。「ささる」はやっぱり「刺さる」なのでしょうか。
(2020年05月21日)