仕事中にしばしば出合う、本来とは違う意味合いや、辞書ではあまり見つからない言葉遣い。そんな“気になる表現”にどう対応するか、マスコミ各社の用語担当者が参加する日本新聞協会用語懇談会に報告された2019年秋のアンケート(関西地区新聞用語懇談会で毎日新聞大阪本社が幹事社として主導)からまとめた3回目です。
これらの扱いは用語基準としては決められていないものも多く、回答は各社の公式見解というわけではありませんが、校閲記者ら各社の用語担当がどのように考えるか、その傾向はうかがえます。
ぜひ、一緒に考えてみてください。
回答したのは17社(全国紙・通信社6、スポーツ紙1、テレビ局5、地方紙5)の用語担当者。原則として話し言葉や寄稿文、引用などの場合は除く。
目次
「雌雄を決する」
「雌」「雄」で優劣を決めるという表現をジェンダー的に認めてよいか
直す 3社 |
場合による 6社 |
直さない 8社 |
「直す」は少数だったが「場合による」が多く、回答には「望ましくはないが許容」「今後は考慮する必要があるかもしれない」「見解が分かれている」などの言葉が並び、各社悩みながら使用している様子がうかがえた。
「雌雄を決する」以外にも「雄姿」「英雄」「雌伏」など、「雄」「雌」の字を含む言葉は多く、規制しづらいという事情があるようだ。ただ、引っかかりを覚える人が多いことも結果からは読み取れ、言い換え例として挙げられた「決着をつける」「直接対決する」などとして差し支えないのであれば、それに越したことはない表現であるとは言えそうだ。
「軸をぶらさず」
「ぶれる」の他動詞化「ぶらす」を許容するか
直す 8社 |
場合による 5社 |
直さない 3社 |
「直す」社がやや多く、また「直さない」社からも「一部の辞書に掲載されており、直しづらい」(三省堂国語辞典の「ぶれる」項目の末尾には他動詞として「ぶらす」が掲載されている)という理由が述べられ、違和感なく受け入れられているとは言いがたい結果となった。言い換え候補としては「ぶれさせず」「軸がぶれることなく」が挙がったが、アンケート作成時には毎日の部員から「他動詞の方が意志を感じる」という意見も聞かれ、このあたりが「ぶらす」を使いたくなる理由かもしれない。
なお、「ぶれる」については「カメラが動いてしまうことや標準、基準からのずれといった意味と比較して、信念や言動が変化する意味で使用されることが近年増えてきているのではないか」との指摘もあった。
下位の選手が上位を「下す」
下位の選手が上位の選手を破った際も「下す」「降す」でよいか
直す 3社 |
場合による 3社 |
直さない 10社 |
「降す」という言葉については、格上の者が下の者を負かす時に使うという考え方があり、毎日新聞のスポーツ記事も書き手側はなるべくこれにのっとっているというが、校閲サイドではあまり手を入れていない。他の報道機関ではどの程度この意識が持たれているのか尋ねてみたが、新聞については「直さない」、テレビは「直す」「場合による」が多数派だった。
新聞に「直さない」が多いのは、「降す」に上下関係が意識されるのは慣例にすぎず、言葉の意味としておかしいわけではないということによるだろう。一方「直す」派が多いテレビからは、相撲などの格付けが明確なものは直し、実力の上下が不明な高校野球などは「降す」という言葉を使わないようにしているという報告もあった。