「近年」という言葉がどの程度の期間を指すのか伺いました。
目次
9割が「10年」以内を選択
ある程度の過去の範囲を指す「近年」。どれくらい前までを指しますか? |
5年程度 61.2% |
10年程度 27.6% |
30年程度 3.5% |
「昔」よりは近い、広い範囲 7.7% |
「5年程度」が6割を占め、「10年程度」まで含めると9割近くになりました。「近年」と言ってよいのは5年以内、せいぜいのところ10年以内、というのが多くの人の一致する見解のようです。
辞書編集者も迷う「近年」
以前、毎日新聞の校閲センターの部員が広辞苑の編集担当者に話を伺った際に「『近年』っていう言葉だったらどれくらいのことを指しますか?」という問いが持ち上がりました。
その際には、使う人の年齢が高くなると範囲が広くなるという話が出て、人によって感じ方の違う言葉だという話に。しかし、今回の結果のように皆さんがイメージしているとなると、あまりいいかげんに「近年」を伸び縮みさせるわけにはいかないかもしれません。
実際にどう使うかというと…
この「毎日ことば」のサイトでも「近年」はよく出てきます。本稿の筆者が使ったものを幾つかあげてみると「近年は表外字であっても『死の淵』とする社が多くなっています」「新聞でも近年、病気などに『発覚』を使う例が増えています」「近年では、『周年』の受け止め方に変化が生じてきています」――など。
セルフチェックすると、一つ目の「死の淵」についてのくだりはここ数年の各社の用語集改訂を踏まえてのものなので「5年程度」。「発覚」に関するくだりは2010年代の使用頻度を受けての話なので「10年程度」か。最後は阪神大震災(1995年)後の「周年」の受け止め方も踏まえたもので、20年程度のスパンを持つことになります。10年程度というのは感覚として分かる感じはありますが、必ずしもそれに収まるとは言い切れません。
感覚的な表現だが目安は「10年」か
回答から見られる解説では、辞書の説明文に出てくる「近年」が改訂を経てもそのままになっており、場合によっては何十年もの範囲を指すことを取り上げました。たとえば大辞泉における「ハンセン病」の項目の「近年は有効な化学療法剤がある」という説明は1995年の初版から2014年の第2版にも引き継がれているものですが、ここで今も「近年」というのはいささか時代錯誤という印象が拭えません。
改訂の際の見落とし、と言えば話は終わってしまうのですが、単に見落とされたわけではないでしょう。説明文を読み直しても「分かる、分かる」と話が通じてしまうからこそ、「近年」は残ったのだろうと考えます。回答からの解説で見た広辞苑での「週末」の例にしても、感覚的に理解できるから残り続けているのであり、ことほどさように「近年」という言い回しは、言葉の使い手・受け手の感覚に依存しているものなのです。
もっともアンケートの結果で「10年以内」という答えが大半を占めたのは重い事実です。個人的な感覚として「近年」でよいと感じられる場合でも、一般的にはその範囲をはみ出している、ということが起こりうると承知した上で使うべき言葉と言えそうです。
(2019年07月12日)
「近年」という言葉は辞書を引くと「最近の数年。この年頃。近ごろ」(広辞苑7版)とあります。「数(すう)」は「少ない数を漠然と示す語」(同)といい、「数年」のはっきりした定義は示されていませんが、校閲センターが過去にアンケートした際には「2、3年」から「5、6年」の範囲で使う人が大多数を占めました。
してみると「近年」もそれぐらいの範囲かとも思いますが、必ずしもそうとは言えないかも。先日、「週末」についてのアンケートの結果をまとめた際には、広辞苑が「週末」の語釈で1991年の4版から2018年の7版に至るまで「近年」を使い続けていることを紹介しました。この使い方だと「近年」は柔軟に範囲が変わり、20年以上前でもよいことになりそうです。
正直なところ、そのような「近年」の使い方は普通であって、「数年」という説明に無理があるように感じます。大辞泉(2版)で「のし【熨斗/熨】」の項目を見ると「(前略)熨斗鮑(あわび)の代わりに昆布や紙を用いたりする。近年はふつう熨斗紙が用いられる」とあります。同じ大辞泉の「近年」の説明は「最近の数年間。ここ数年」なのですが、のし紙が普通になったのはけっして「ここ数年」のことではありません。
あまりに意味が曖昧な語はニュースの記述では使えないかもしれません――が、皆さんがこの曖昧さを受け入れているなら、それはそれで使えるのかも。いかがでしょうか。
(2019年06月24日)