
三陸海岸に代表される地形の用語についてお聞きしました。
目次
「リアス式海岸」が多数派だが
| 三陸海岸に代表される海岸地形とは? |
| リアス海岸 28.3% |
| リアス式海岸 71.7% |
結果は「リアス式海岸」が約7割でした。質問時の解説で記したように、今の中学の地理教科書では「リアス海岸」となっていますが、それを知らない人が多いのか、「式」が根強く残っていることがうかがえます。
20年ほど前から変更
帝国書院のウェブサイトに「『リアス式海岸』が『リアス海岸』と表記されるようになったのはなぜですか」という質問に対して以下の答えがあります。
「リアス(rias)」とは、スペイン語で入り江を意味する「リア(ria)」の複数形です。スペイン北西部のガリシア地方には入り江が多く見られ、「リアスバハス海岸」とよばれています。この「リアス」を由来として、山地や丘陵の谷に海水が浸入してできた入り江が顕著に連なってみられる海岸地形のことを、「rias coast」(英語)というようになりました。この和訳として「リアス式海岸」という表記が昭和30年代以降使用され、定着してきました。しかし、「リアス」そのものが入り江の地形を表す語であるので、あえて「式」を入れる必要はなく、地理学・地形学の学術用語としては「リアス海岸」という表記がより適切であるとされるようになりました。
地図帳・教科書でも、長らく「リアス式海岸」と表記していましたが、こうした近年の学界等の動向をふまえ、平成20年度用のものから「リアス海岸」に表記を変更しました。
平成20年は2008年。他の教科書では06年に変えたそうです。つまり、変わってまだ20年そこそこ。現在30歳以上の人はほとんどが「リアス式海岸」という用語で習っていたと思われます。
残念ながらこのアンケートは回答者の年齢が分かりません。ただ、この結果からは回答者は30代以上が多かったことが推測できます。
「カキじいさん」の用語に変化

毎日新聞の記事データベースを見ると、06年以降現在までの紙面(東京本社発行分)に載った記事の件数は、「リアス海岸」を使ったものが14件だったのに対し、「リアス式海岸」は135件と10倍近く。最近の岩手県の山林火災の記事でも使われていました。ところが毎日小学生新聞だと「リアス」15件、「リアス式」42件と差が縮まります。5年前の21年以降はほぼ「リアス式」はなくなります。
毎日小学生新聞の校閲担当者によると、特に編集部内で「リアス海岸」に統一するお触れがあったわけではないとのこと。ただ、ちょうど21年に「その言葉、もう使われていませんよ」(KAWADE夢文庫)という本で、今の教科書が「リアス海岸」に変わっていることを知り、見つけたら直すようにしているということです。ちなみに今の教科書で「縄文式土器」が「縄文土器」になっていることも、この本に書かれていました。

その前年の20年まで、毎日小学生新聞では「カキじいさんの気仙沼だより 海から 森から」という連載がありました。筆者は昨年81歳で亡くなった畠山重篤さん。ここでは「リアス式海岸」と書かれていました。
しかし、24年の畠山さんの本「カキじいさん、世界へ行く!」(講談社)では「リアス海岸」が使われています。飛び飛びに引用しましょう。
海の波ではなく、川が削った地形
子どものころから「リアス式」ということばをいつも使っています。でも、それが何語であるかなど、まったく疑問に思ったことはありませんでした。
ある日「リアス海岸の『リアス』がスペイン語であること」、もともとのことばは「リア」ということを知った畠山さんは、「たいそうな思い違いをしていたことに気がついたのです」。
スペイン語の辞書で「リア」を調べてみると、湾という意味もありますが、「潮入り川」という意味でした。さらに、リアということばは「リオ(川)」から生まれてきたことも知りました。
つまり、三陸海岸に見られるように、複雑に入り組んだ湾は、もともと、川がけずった谷だったのです。
「リアス式」とだれが最初に呼ぶようになったのかはわかりませんが、明治になって教科書をつくるとき、日本語でどう表現するか迷ったのでしょうね。英語でも、リアス・コーストとあらわしているので、「リアス式」としたのでしょう。
いままでわたしは、このような入り組んだ湾は、海の波がけずってできたものとばかり思っていたのです。
ところが、リアスとは、川がけずった谷ですから、三陸海岸の数多くの湾を見ても、湾の奥には、かならず川が流れこんでいます。川が流れこむ海だから豊かなのですね。
そして畠山さんは元祖リアス海岸と言うべきスペインのベタンソス湾に行き、そこの漁業組合長からこう聞かされます。
「リア」とは、川が入っている入り江を表すことばで、単に海の波によってけずられた湾は、「リア」とは呼ばない。
――リアス、リアの言葉そのものへの言及はここまで。畠山さんが「式」を使わなくなった経緯は語られていません。
海の命を育む森と川
思うに、「式」が接尾語になる用例を見ると、「新式」「和式」「ヘボン式」「スパルタ式」「ねじ式」(?)……と、形式・やり方という人為的なニュアンスがつきまといます。これに対し、「リアス」は自然の地形なので「式」を付けるのはふさわしくない、という理由付けはできそうです。
新聞はNIE(教育に新聞を)という運動を以前から重視していますから、新聞に使う言葉はなるべく教育現場と一致させることが求められます。
もっとも、教育現場で「リアス式海岸」と書くとバツになるかというと微妙です。同じことを表す用語であるし、間違いと断じるのは行き過ぎのような気がします。
ちなみに、畠山さんは「森は海の恋人」というすてきなスローガンを作ったことで有名です。しかし畠山さんはスペインへの旅で、同地にも「森は海の母さん」という言い回しがあることを知ります。
森から川を通して良質なプランクトンが海に流れ込み、たくさんの海の命を育んでいくということは、世界共通のようです。その面白さを子どもに伝える方が、「式」の有無でマルかバツかを判断するよりよほど重要なことではないでしょうか。
(2026年05月11日)
一定の年齢以上の人は「リアス式海岸」で習ったと思いますが、最近の教科書では「リアス海岸」となっています。例えば東京書籍の地理の中学校向け教科書では2006年から「リアス式海岸」を「リアス海岸」に変更しています。帝国書院の教科書は08年から、教育出版では06年から変更したと各社ホームページにあります。
ただ、新聞の表記としては決まりがなく、10年以降の毎日新聞本紙(東京本社発行)と毎日小学生新聞の件数を合わせると「リアス式海岸」166件、「リアス海岸」29件とまだ「式」付き表記が圧倒的です。いずれも読者から指摘を受けたという記憶はありません。
辞書ではどうでしょう。10年以降発行の版で職場の辞書を調べると、「式」付きを見出しに取っているのは2種で、「式」なしが5種。例えば旺文社国語辞典は13年の11版で「リアス式海岸」だったのが23年の12版で「リアス海岸」になりました。ただし語釈の中に「リアス式海岸」も併記されていて、これも間違いではないことを示しています。が、テストなどでは「式」を入れたら減点対象になるのでしょうか。もしお目にとまれば、地理の先生の投稿を期待したいところです。
(2026年04月27日)
