ろうそくに「ひ」をともすというとき、「火」と「灯」のどちらを使うか伺いました。
目次
どちらも3分の1程度
ろうそくに「ひ」をともす、というとき使う漢字は? |
火 32.7% |
灯 35.7% |
どちらでもよい 9.3% |
意味によって使い分ける 22.3% |
「灯」が「火」を上回りましたが、いずれも3分の1程度を占めています。「どちらでもよい」も約1割、「使い分ける」という方も2割。回答は割れました。
「灯」も元は「燃えさかる火」のこと
ツイッターでは「灯」と「燈」の関係についてコメントを頂きました。実は出題者は、「燈」は「灯」の旧字とされていることぐらいしか知らず、改めて調べてみることに。「燈」は明かり・ともしびのことで、新聞では「灯」で表します。ところが「灯」は「もと、燃えさかる火の意を表したが、俗に燈の意に用いる」(新字源改訂新版)。元々は別字で、字義は「灯」も燃える火だったのですね。かなり古い時期(元、明のころ)から同一の意味で使われるようになり、今は「灯」は「燈」の新字体として扱われています。
現在では「灯」はもっぱら「照らすための光。ともしび。あかり」(三省堂国語辞典7版)の意味で使われます。「文化の灯」「希望の灯」などの例えに使われることも多く、あたたかな明るさや郷愁を感じる方が多い字ではないでしょうか。松任谷由実さんの幻想的な名曲「輪舞曲(ロンド)」の歌い出しは「キャンドルに灯をともしましょう 思い出みんな照らすように」。「灯」こそが燃えさかる火だ、というイメージは抱きにくくなっていると思います。
ですから回答の際の解説で触れたような、「火は燃える火、灯は明かり・ともしび」という使い分けは、現在では妥当でしょう。では、ろうそくの場合どうするか。
普通は「火」、明かりは「灯」もOK
最近は仏壇のろうそくに、燃える火ではなく電気で点灯させるものも使われますが、そういう例外を除けば「火をともす」を否定する材料は見つかりません。対して「灯をともす」場面は限られそうです。たとえば花火や線香に移すためにろうそくを使うなら、明かり・ともしびという意味からは離れてしまいます。
毎日新聞用語集は「灯をともす」という用例のみ挙げているため、これを尊重するなら「ろうそくに火をつける」とか「ろうそくをともす」などとして「火をともす」を避けることはできますが、正直なところ、そんな小手先の技を使うほどではないような気もします。
今回のアンケートの結果を見ても、はっきり決められないのが現実です。「ろうそくに火をともす」はいつでも使え、明かりとする場合には「ろうそくに灯をともす」もOK、というぐらいでしょうか。
「灯」でメッセージを込める場合も
東日本大震災から8年。地震発生直後は電気とガスが止まり、ろうそくを頼りにした方も多かったことでしょう。「命の火」であり「命の灯」であったと思います。そして今年も犠牲者を悼む式典ではろうそくがともされました。あ、こういう場面でも、追悼の心や復興への希望、将来への誓いなどの思いを込めた明かりと考えて「灯をともした」と書いてもよいかもしれませんね。
(2019年03月15日)
毎日新聞用語集では、「火」を「燃える火」、「灯」を「ともしび」とした上で、「灯をともす」という用例を載せています。だとするとジレンマに陥るように見えます。ろうそくにつけるのは明らかに「燃える火」ですが、用例を見れば「灯をともす」にせねばなりません。毎日新聞の過去記事では、「ろうそくに<火/灯>をともす」はいずれも多く見られます。どちらがよいのでしょう。
岩波国語辞典(7新版)を引くと、「ともす」とは「灯火(とうか/ともしび)をつける」ことで、灯火は「ともしてあかりとする火」。だから「ともす」という以上は、燃える火であっても明かりとするためのもの(灯火)なのだから「灯」を使う、という理屈は成り立つでしょう。他の新聞・通信社の用語集でも「灯をともす」としているものが多数派です。
しかしろうそくについては例外で「火」を使うと定めている社もあります。ある社の用語集では「ろうそくに火をともす〔点火〕」「ろうそくの灯〔あかり〕」と使い分けており、単なる燃える「火」がろうそくにともることによって「灯」という意味を持つ、と言えそうです。
「ともす」についても、「点火する」(広辞苑7版)という語釈もあることを考えれば、明かりにする場面でしか使えない、とは言い切れません。むしろ、ゆらめく炎を思い浮かべれば「ろうそくに火をともす」のほうが実態に合うのでは、とも思います。みなさんの感覚はどちらでしょう。
(2019年02月25日)