仲間も舌を巻く校閲の「いい仕事」の裏側を紹介する「校閲グッジョブ!」。今回は野球の記事を取り上げます。実際の記録を調べるまでもなく一読して「おかしいかも?」と気付けたことが、時間に追われながらもきちんと誤りを防ぐことにつながりました。
社会人野球・JABA静岡大会の決勝戦に関して、JR東海の4番・水谷祥平選手の活躍を取り上げた原稿です。
<校閲前>
先制点をもたらしたのは水谷の一打だった。1死二、三塁の好機で中前打を放った。二回には好機で冷静に犠飛を放って追加点をもたらした。1点差に迫られた直後の八回にも貴重な打点をマーク。決勝は5打数3安打4打点の活躍を見せ……
問題の記述は「5打数3安打4打点の活躍」という部分。まず前提知識として野球の記録では犠飛や犠打は「打数」に含みません。「二回には犠飛」という記述が直前にあることを踏まえると水谷選手はこの試合で6回以上打席に立ったことになります。「九回で終了した試合で4番に6回も打席が回るのか?」と疑問に思ったことが誤りを見つけるきっかけになりました。
数字に関する部分は誤れば致命傷。急いでスコアブックで確認します。今回はアマチュア野球の試合結果を細かく掲載しているサイト「一球速報」を参照しました。JABA静岡大会の決勝の記録はこちら。
スコアブックで水谷選手の打撃結果を確認します。
やはりこの試合、水谷選手の記録は「5打席・4打数」。締め切りが迫っていたためいったんはこのくだりを削除した状態で降版し、その後「4打数3安打4打点」と正しい記録に改められました。
<校閲後>
先制点をもたらしたのは水谷の一打だった。1死二、三塁の好機で中前打を放った。二回には好機で冷静に犠飛を放って追加点をもたらした。1点差に迫られた直後の八回にも貴重な打点をマーク。決勝は4打数3安打4打点の活躍を見せ……
新聞のスポーツ記事は、その日の夕方や夜に終了した試合の結果を載せるためとりわけタイトな時間での校閲を求められます。この原稿が校閲に回ってきたのは締め切りの約10分前。そんな場面でも、冷静に確認作業を行わなければなりません。
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