「校閲グッジョブ!」とは
複数人で校閲の仕事をしていると、「どうやって調べたの?」「なぜその誤りに気づけたの?」と舌を巻くような仲間の指摘を見かけることが。まったく同じ事例ではなくても、調べ方や考え方、着目点など参考になる部分がたくさんあるはず――ということで、表には見えない校閲の「いい仕事」の裏側をご紹介するコーナーです。
<校閲前>
EUは24年11月、ウクライナ向けの弾薬、防空ミサイルなど五つの兵器の共同調達計画に計300億ユーロ(約4兆8000億円)の資金支援を開始
<校閲後>
EUは24年11月、ウクライナ向けの弾薬、防空ミサイルなど五つの兵器の共同調達計画に計3億ユーロ(約480億円)の資金支援を開始
数字の確認は校閲の基本。出典に直接当たるのが一番ですが、今回のように出典が明記されていなかったり外国の情報だったりする場合は難しいことも。そんなとき、「数字そのもので検索してみる」というのは手っ取り早い方法です。今回の例で「校閲前」の文章であれば、「€30 billion」と関連しそうなキーワードを組み合わせて検索→引っかかった外国語の記事などを読んで情報のでどころや発表日を知る→元の1次資料にたどり着く……という調べ方をすることがあります。
ところが今回はどうにもそれらしい情報がみつかりません。「€30 billion」以外の情報を手がかりに調べてみますが、それでもなかなかヒットしませんでした。もちろんすべての情報がインターネットで確認できるとは限りませんが、300億ユーロもの資金支援であれば見つかってもおかしくないのでは? もう少し粘ってみることにします。
方針を変えて「EUは24年11月」という部分に注目し、欧州連合(EU)の行政執行機関・欧州委員会のニュース一覧から11月のリリースを見てみることにします。すると11月14日のリリースのタイトルに「common defence procurement(共同防衛調達)やfinancial support(資金提供)」という文字があるのが目に入りました。本文を読んでみると、「五つの国境を越えたプロジェクト」などという言葉も見つかり、原稿の説明に合致しそうです。やっと見つかった!
ところが、ここに記されている金額は「€300 million」(3億ユーロ)で、300億とは大きな開きがあります。
「300」のところだけ見て誤記した可能性もあるかもしれません。欧州委員会のリリースを元に「もしこれのことであれば、3億ユーロでは?」と問い合わせ、確認してもらった結果無事「3億ユーロ」と直りました。
もちろん、円換算の金額も一緒に直すのを忘れずに。
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