「年末」という言葉をいつごろについて使うか伺いました。
目次
「人により、場合により」か
「年末」といえば普通は大みそかまでの時期ですが、いつごろからを指しますか? |
12月の初めから 24.4% |
12月の半ばから 20.3% |
12月の下旬 34.8% |
大みそかの数日前から 20.5% |
「12月の下旬」と答えた人がやや多かったものの、ほぼ4分割するような形になりました。人それぞれの暮らしや、場面によっても使い方の異なる言葉と考えた方がよく、はっきりした時期を指す言葉ではない、ということがうかがえます。
「暮れ」は「年用意」に対応
「角川俳句大歳時記 冬」では、「年末」は「年の暮」の項目にまとめて置いています。「年の暮」の解説は「一年の終わり。暮ともいう。年用意と表裏一体となった言葉であり、一二月半ば、新年の準備に取りかかる頃からをさす」と言います。なるほど、来年の準備を始める頃からが「暮れ」であり、すなわち「年末」であると。素っ気ない語釈の多かった国語辞典とは違った視点からの理解です。
「年用意」とは。毎日新聞に連載中の坪内稔典さん「季語刻々」の過去記事から引くと「すす払い、畳替え、障子張り、餅つき、春着の支度、しめ飾り、正月料理の用意など」。「春着」は「晴れ着」のこと。それらをいつから始めるかというと、ここは別に「正月事始め」という言葉があり、12月13日がその日とされています。「江戸時代、幕府が13日を『すす払いの日』と定めたことから民衆にも広がりました」とは毎日小学生新聞に連載されていた「オシャレな俳句歳時記」の神野紗希さん。近代以前はそうやって一年の過ごし方にメリハリを付けていたのだと感心します。
新聞社に「年末」はない?
ここで我が身を振り返ると、校閲記者には正直なところ、年末も年始もあまり関係がないのでした。「歳晩のビル耿耿と新聞社」(稲田眸子)。「歳晩」は「歳末」「年末」の意味。年末でも新聞社には明かりがこうこうと照っている――という句ですが、すなわち新聞社は年末も休まない、よくやるなあ、という感じでしょうか。しかしこれも新聞社や校閲記者に限った話ではありません。
今の社会では、交通機関もガスも電気もコンビニも、普段通りの作業をいつも続けています。こうした動き方をする人の多い社会は、年の瀬に向けて時間の過ごし方を変える人とは違うリズムを生み出していると言えるでしょう。世の中の時間感覚が統一されていないと言ってもよく、こうした社会では「年末」の捉え方が人によりまちまちになるのも不思議ではありません。
期限を示す場合は31日が多い
上記のようなことを考えながら「年末」の出てくる2018年の記事を見ていると、妙にトランプ米大統領が目立ちます。なぜか。ヘイリー国連大使、ケリー大統領首席補佐官、ジンキ内務長官、マクガーク大統領特使、マティス国防長官――こうした人たちが皆、年末で退任ないし解任になるからでした。「年末」の時期は人と場合によりまちまちだから、使う際にはご注意を――のような結びを考えていたのですが、トランプ氏絡みの皆さんの場合、「年末」は12月31日のこと。岩波国語辞典(7新版)の「年末」の項目は「▽『―までに』の形は、十二月三十一日とかその年の最後の営業日とかまでを意味することがある」と言いますが、その通りの使われ方でした。
(2018年12月30日)
今年も終わりが意識される時期になりました。「年末」を国語辞典で引いてみると、辞書によっては「としのすえ。としのくれ。歳末」(広辞苑7版)とあるだけ。分かりきったことで説明するまでもない、と言いたそうです。
期間を明示しようとしているのは新明解国語辞典(7版)。「一年の終りの時期。〔普通、十二月を指す〕」として、年末とは12月のことだと主張しています。三省堂国語辞典(7版)も語釈では「一年の終わり〔=十二月〕」として、12月という見解に賛同しているようです。
新聞では12月に入ってからも「年末にかけてさらに気温は下がると見込まれる」のように、「年末」はまだこれからだ、という形の文がしばしば現れます。この場合は「年末=12月」だと不都合です。
その点、日本国語大辞典(2版)は「普通は一二月二〇日以降をいうが、それ以前をさすこともある」と柔軟な構え。確かに20日以降ぐらいと「年末にかけ~」のような使い方もしやすいと思うのですが、皆さんはどうイメージしているでしょうか。
(2018年12月06日)