貿易の分野で使われる「譲許」という言葉について伺いました。
9割以上に説明が必要
貿易問題で出てくる「譲許」という言葉、ご存じですか? |
意味を知っている 1.6% |
意味は推測でき、説明は要らない 2.6% |
意味は推測できるが説明がほしい 40.5% |
意味が分からない 55.4% |
過半数が「意味が分からない」を選び、「意味は推測できるが説明がほしい」も4割。実に9割以上の方にとって説明が必要な用語だという結果でした。使われている漢字自体はさほど難しくないので、ここまで多いのは予想外でした。
アンケートのきっかけは、9月28日の毎日新聞朝刊「日米共同声明骨子」。関税引き下げ交渉に向け、「日本は農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」を米国が尊重する、とありました。共同声明の原文通りの書き方ではあるのですが、「骨子」としてはかなり難解に感じ、読者に理解してもらえるのだろうかと不安になったわけです。
「譲許」を載せている辞書は少なく、大辞林(3版)では「ある事柄について、協議し、合意すること」。広辞苑(7版)では「関税譲許」の項目で「二国間または多国間の協定に基づいて、関税を軽減または撤廃」する約束だと説明しています。日本貿易振興機構(ジェトロ)の「TPP解説書・関税編」では、協定税率という語句の説明の中に「一定率以上の関税を課さないことを約束(譲許)している税率」との記述がありました。
つまり「譲許」とは、貿易相手国と協議して関税を下げ、税率はこれ以上高くしないと約束すること。出題者自身もこうした意味をきちんと知らず、字面から「相手国に譲歩して認めるということかな」と推測する程度でした。実際にそれで大外れではないし、意味を取り違えることは少ないだろうとも思ったのですが、アンケート結果を見ると、「譲許」という言葉をそのまま使ったのは理解の妨げになった可能性が高そうです。
同じ日の他紙で要点をまとめた記事を見てみると、「日本が過去の経済連携協定で約束した水準を米側が尊重する」(朝日)、「日本が過去の経済連携協定で認めた範囲が限度」(読売)、「TPPで合意した水準までしか関税引き下げを認めないとの日本の立場を米国は尊重」(産経)、「過去の経済連携協定で約束した内容が最大限との日本の立場を尊重」(日経)――といった書き方でした。経済に関心の高い読者を想定しているはずの日経新聞でさえ「譲許」「市場アクセス」といった用語を使わずに説明しています。比べてみれば、残念ながら毎日の骨子は硬くて難しいと言わざるを得ません。
公的機関の発表は、一般市民に理解されないように、わざと専門用語を駆使し難解な言い回しをしているのではないかと勘繰ってしまうこともあるほどです。その表現のままに報道して受け手が消化不良になるのでは、メディアの役割を十分果たしているとは言えません。今回の「譲許」に限らず、なじみのない専門用語は使わずに済ませる、または説明をつけながら使うなどの工夫をしなければならないと改めて痛感した次第です。
(2018年10月30日)
関税引き下げ交渉開始で合意した9月の日米首脳会談。共同声明には、「農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」という日本の立場が記されました。
「過去の経済連携協定」とは環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を指し、「市場アクセス」とは関税を下げて外国製品が日本市場に参入すること。つまり「農林水産品の関税は、TPPで譲許したラインまでしか引き下げません」という内容です。ではこの見慣れない「譲許」は何でしょう。
広辞苑(7版)では「関税譲許」の項目で「二国間または多国間の協定に基づいて、関税を軽減または撤廃」する約束だと説明しており、限られた分野で使われる用語のようです。多くの辞書は「譲許」単独では載せておらず、大辞林(3版)で「ある事柄について、協議し、合意すること」とあるのが見つかった程度。協議によってお互い譲歩し合意するわけですから、「譲る」「許す」の字面から推測は可能でしょう。
このように見慣れない熟語だけれども意味は理解してもらえそうだというとき、よりなじんだ言葉にしたり詳しく説明をつけたりした方がいいのか迷うことがあります。「譲許」はその一例ですが、皆さんはどう感じるでしょうか。
(2018年10月11日)