「留守を守る」という言い回しについて伺いました。
7割の人が「違和感あり」も許容派が多数
「留守を守る」という表現。違和感はありますか? |
違和感はない 29.4% |
違和感はあるが、許容範囲 38.4% |
違和感がある。「留守を預かる」などとすべし 32.2% |
3分割に近い結果となりました。7割の人が「違和感あり」と答えつつも、その中では「許容範囲」という人が過半を占めています。すなわちこの結果は、「違和感なし」も含めれば7割近くが「留守を守る」を許容していることを意味してもいます。
以前、変わった名字を取り上げたテレビ番組で「留守さん」が登場したものを見たことがあります。電話をかけると「はい、留守です」と答えてくれるというわけで、スタジオの笑いを誘っていました。でもこの「留守」は「不在」という意味ではなく、主の不在を任されるという「留守居役」の意味のはずです。
戦国時代に詳しい人や、ゲームの「信長の野望」でもやったことのある人なら、東北は伊達家の重臣に「留守政景」という武将がいたのを覚えているかもしれません。伊達家の一門に属した留守氏はもともと伊沢氏を名乗っていましたが、奥州藤原氏滅亡の後、源頼朝から「陸奥国留守職」に任ぜられたことから「留守氏」を名乗るようになったとのこと(「宮城県百科事典」河北新報社)。
この「留守職」は陸奥国留守所の長ですが、「留守所」は本来の国司が京都から地方へ下らずに行政を執り行ったために置かれた行政機関です。陸奥国留守職は鎌倉幕府の意を受けて執政したわけですが、本来の権力者の不在を任されるという意味では同様です。重要な役割を意味する名字なのですが、現代ではちょっとした話の種にされることもあるのには「留守さん」も複雑な思いがあるかもしれません。
回りくどい話になりましたが、要するに現在では「留守」に元々あった「守る」という意味が薄れており、「不在」という意味ばかりが目立つようになった、ということです。辞書も「家人の外出中に家を守ること。その人」という意味を挙げつつも、「この意では今は普通『留守居』『留守番』と言う」(岩波国語辞典7新版)と注釈を付けています。であってみれば、「留守を守る」という言い回しには文字遣いから違和感が残るとしても、意味上は許容できると考える人が多数派を占めることは理解できます。
ただし、新聞製作上の観点から言うと、今回の質問のきっかけになった「○○の留守守る」のような見出しの付け方はあまり感心はできません。「留守=不在」と捉えるのであれば、見出しは「不在守る」でもよかったのではないかと思われます。
(2018年10月23日)
プロ野球で、故障で欠場した選手の代役が活躍。記事には「○○、△△の留守守る」という見出しが付きました。「守」が続いており気になったのですが、データベースで過去記事を調べると「留守を守る」という言い回しはそれなりに使われており、許容される表現なのだろうと直すことはしませんでした。
留守という言葉、元は「主人や家人の外出中、居残って家を守ること。また、その人」(広辞苑7版)を意味していました。とど(留)まって守る、という字の通りで、留守居役のことも含みます。そこから転じて「外出して家にいないこと。不在」(同)を意味するようになりました。留守居役がいるというのは主人が不在ということで、その不在の方にスポットを当てた意味が、現在の主流ではないでしょうか。
レギュラーが不在のポジションをしっかり務める、という意味では「不在(留守)を守る」でよいのかもしれません。しかし、元の意味である「守ること」からすると、重複表現になってしまいます。通常なら「留守を預かる」が良さそうですが、野球では「穴を埋める」ぐらいが妥当だったでしょうか。
(2018年10月04日)