「クリスマス」の省略表記についてうかがいました。
目次
「Xマス」「X’マス」は不人気
もうすぐ「クリスマス」。略すならば、どう書きますか? |
Xマス 7.1% |
X’マス 2.1% |
Xmas 41.1% |
X’mas 49.7% |
結果はX’masがほぼ半数。小差でXmasと、この二つがほとんどを占め、Xマス、X’マスは不人気のようです。
まず「マス」のカタカナ表記について。NHK放送文化研究所のサイトによると
「Xマス」と書かれることもありますが、アルファベットとカタカナの交ぜ書きなので、見やすい表記とは言えないでしょう。
とあります。「交ぜ書き」とは校閲現場では普通「改ざん」など漢字と平仮名を交ぜた熟語をいいますが、アルファベットとカタカナもそう言うのかという疑問はさておき、見にくい表記なのでしょうか。「Tシャツ」とか「Gメン」とか「Xリーグ」とか、日本語としては珍しくない書き方という気がします。(余談ですが「Gパン」はジーンズがjeansなので不適切とされ「ジーパン」と直しています)
ただ、今回のアンケートの支持率から推測するに、Xとマスというつながりは「見にくい」というよりは「見慣れない」ということではないでしょうか。
広告やイラストなどに書かれる省略表記はほとんどがXmasかX’masであり、Xマスは新聞の見出しなど限定的です。検索するとNHKの番組でも「Xマス&年末年始のお金の秘密78分SP!」という表記が出てきますが、目に触れる割合はやはりXmasかX’masが圧倒的でしょう。
もう一つ、「Xマス」の読み方の問題があります。「クリスマス」を意味することは頭では分かっていても「エックス」というアルファベットの読み方の方がなじみがあるので、見慣れていないと「Xマス=エックスマス?」と違和感を覚える人が多いのではないでしょうか。
しかしこれも「W杯」を「ワールドカップ」の意味で使い「ダブリューはい」と普通に読む人もいるという例もあるので、やはり「慣れ」の差と考えられます。
新聞の見出しなどに多い「Xマス」は、日本の新聞なのだから日本語でという意識があるのに加え、見出しは一文字でも少なくしたいという編集者の意向も踏まえた折衷表記といえるかもしれません。
Xは省略ではないので「’」は要らない
次にアポストロフィー(’)の有無について。毎日新聞用語集には〈X’マスと’はつけない〉とあります。英和辞典も「X’masは誤り」などとするものが見受けられます。
Xはキリストを表すギリシャ語の頭文字から来ていて、それだけでChristを表します。これにミサの意味のmasを付けたのがXmasで、Xは省略形ではないので省略符号であるアポストロフィーは不要なのです。カタカナになってもその理屈は同じで「X’マス」は不適切とされるのです。
実際、「X’mas」の表記が新聞に出たとき、元高校教師から「間違いです」という指摘をいただいたことがあります。この場合はイベントのタイトルだったので校閲としては直したくても直せなかったのですが。
もっとも、英和辞典を引き比べてみると、X’masを「誤り」とするもののほかに「まれ」と記すものもあり、必ずしも全否定されているとは限りません。
今年出た本「英語の記号・書式・数量表現のしくみ」(大名力著、研究社)にはこうあります。
日本でよく見られるX’masの表記ですが、普通はXmasと綴(つづ)ります。X-masと綴られることもあります。
「普通じゃないけど、明確に間違いとは書きにくい」というためらいがあるのかもしれません。
書記環境の変化で省略も不要に?
同書はさらにXmasについても
Xmasという表記は昔から使われている歴史のある綴りですが、現代では好ましくないと考える人もいるそうで、英語で手紙を書くときはChristmasと書く方がよさそうです。
と、慎重な言い回しながら避けるほうが無難としています。
そういえば、看板などでは数十年前に比べ省略表記は幾分減ったような気がします。ただそれは、略するのが不適切だからというより、書記環境が変わり、パソコンでChristmasという文字が一文字一文字打たなくても出せるようになったことが大きいのかもしれません。
とすると、Xmasの日本的表記であるXマスもX’masもX‘マスも次第に使われなくなる可能性もあります。現時点で「Xマスは不適切」とされてはいませんが、何十年か後の人が今の新聞の「Xマス」表記を見ると「何これ?」と思うかもしれません。
2023年の「質問ことば」のアンケートのまとめは今回まで。皆さんありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
(2023年12月25日)
街はすっかりクリスマスモード。看板やチラシ、新聞の見出しにもクリスマス関係の文字を見ない日はないといっても過言ではないでしょう。
ところで、ちまたではXの後にアポストロフィーを付ける表記がしばしば見られますが、一般的には間違いとされます。Xはそれだけでキリストを表し、略すときの記号「’」を付ける必要がないから、と説明されています。
では「Xマス」の表記は? 毎日新聞では認めていますが、アルファベットと仮名の「交ぜ書き」で見やすくないという意見もあります。Xマスは×(バツ)とされるでしょうか。
(2023年12月11日)