「魔法陣」は漫画などでよく出てきますが、この秋発売の三省堂現代新国語辞典に載りました。国語辞典で初めてかも。またこの辞書の発売と同時期に「じゃこ天」がニュースになりましたが、これも載せています。なんという「天」の配剤でしょうか。
時々、もしくはしばしば目にするのに、なぜか辞書に見当たらない言葉があります。新語・流行語の類いではなく、昔からある言葉です。それが最近出た三省堂現代新国語辞典に採録されているのを見いだし、「いいね!」のボタンを押す代わりにここに報告します。
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間違いとされたアレが載った!
毎日小学生新聞に「Z会ナビ」というページがあります。11月29日のイラストに「魔法陣」という言葉が登場しました。ただし間違いとして。
この記事では、縦横三つずつ正方形が並び、縦・横・斜めのどこを掛けても同じ数字になるにはどの数字を入れればよいかというのが問題でした。普通は掛けるのではなく足すものですが、いずれにせよ「魔法陣」ではなく「魔方陣」です。方とはこの場合「正方形」の方です。
瑞木匠さんによるイラストでは、同音の紛らわしさを逆手にとって、魔術や悪魔召喚に使われるとされる円形の絵をつけた上で「魔法陣」という字にバッテンをし、ここで扱うのは「魔方陣」――と、しゃれているわけです。
毎日新聞用語集にも「魔法陣→魔方陣」の記載がありますし、いくつかの辞書も「魔方陣」の項で「魔法陣」は誤りとしています。実際、魔方陣のことを書いた記事で見出しが「魔法陣」となっているものも少なくありません。
でも、「魔法陣」という言葉自体は存在します。古くは1963年に始まった水木しげるさんによる漫画「悪魔くん」で「これが悪魔を呼び出す魔法陣の図面」というセリフとともに円形の図が描かれます。魔法を扱った漫画やライトノベルでは頻出する言葉ではないでしょうか。つまり「魔・方陣」とは別の「魔法・陣」という語の組み合わせなのです。
辞書では初めてかも?
魔法関係だけではありません。ベストセラーになった斎藤栄さんの推理小説にも「水の魔法陣」など「魔法陣」をタイトルに使ったシリーズがあります。
しかし、職場の国語辞典を可能な限り引いても「魔法陣」を見出し語に掲げる国語辞典は見つかりませんでした。俗語やサブカルチャー的言葉の採録が多い三省堂国語辞典でさえ「魔法陣」は載せていません。
それがこの秋発売された三省堂現代新国語辞典7版で載りました。
【魔法陣】[「魔方陣」のもじり]魔術を使うための、閉じた図形。魔法円。
なるほど「もじり」ですか。それにしても、この辞書は先週書いたように「界隈」に「ジャンル」の意味を加えるなど、オタク的用語に敏感なようです。いや、辞書がオタク文化に追いつく時代になったというべきでしょうか。
ニュースで話題のこの食べ物も!
もう一つ、私が注目したのは「じゃこ天」の採用です。ただし見出し語ではなく「じゃこ」の用例としてです。
じゃこ[語源「ざこ(雑魚)」の変化]➊←ちりめんじゃこ。「-天(=愛媛県の郷土料理)」
この言葉は、私が調べた範囲ではどの辞書にも載っていませんでした。多くの辞書は「雑魚(ざこ)」を見よとしているだけ。見出しを立てていても用例は「ちりめんじゃこ」しか見当たりません。接尾語の「天」の用例としても、じゃこ天は探せませんでした。
この言葉について、最近ちょっと面白いニュースがありました。10月23日に秋田県の佐竹敬久知事が「メインディッシュがいいステーキだと思って開けたら、じゃこ天です。貧乏くさい」と発言しました。批判を受け2日後におわびし、そのニュースの後、秋田県民からじゃこ天の注文が急増したそうです。「殿様が失礼しました」とわびる注文客もいたとか。
偶然の一致ですが「天」の配剤?
報道を受けて、早速新しく出た三省堂現代新国語辞典で「じゃこ天」を見つけたとき「なんてタイミングがいいんだ!」と驚きました。発言がニュースになったのは既に書店に並び始めている時だったはず。話題になったので急きょ入れたのではないのです。
「じゃこ天」という言葉がいつからあるのかはっきりしませんが、毎日新聞データベースで確認できる限りでは、1995年の静岡版でおでん種として宇和島のじゃこ天が載っています。関東でもじゃこ天を売っているスーパーは珍しくないと思います。毎日新聞の報道では、今回の騒動でじゃこ天が一気に「全国区に」と記す記事もありましたが、私は前から全国区だったと思います。まあ、個人的に好きだということもあるのですが。
これを入れた担当者も、もしかしたら個人的に好きだったのでしょうか。動機はともかく、担当者がこの偶然のタイミングを「天」の配剤のように感じたことは想像に難くありません。
ただ、あえて注文すると(=愛媛県の郷土料理)だけでは「じゃこ天」も「えび天」のような天ぷらの一種と思われる可能性があるので、「揚げかまぼこ」とか、どういうものかを示す一言があった方がよいと思います。
あくまでも私が調べた範囲ですが、三省堂現代新国語辞典は、ありそうで辞書に載っていなかった語を初めて入れたという点では「破天荒」な辞書といえるかもしれません。この「破天荒」は「今までだれもしなかった、思いもよらないことをするようす」(同辞書)という意味です。「[意味を誤解して生じた俗用で]型破りだ」(同)というつもりで書いたのではありません。念のため……しかしどちらとも取れそうでこう加えなければならないところが使いにくいですね、「破天荒」は。
【岩佐義樹】