「爆進」という言葉について伺いました。
目次
「造語」と受け止める人が7割
「爆進」という言葉を見たら、どう受け止めますか? |
「驀進」の誤字だと思う 18.2% |
勢いよく進む様子を表す造語だと思う 69.1% |
特に問題ないと思う 12.7% |
「爆進」と表記する「ばくしん」の語についてどう感じるかは、「造語だと思う」とした人が最多で7割近くを占めました。勢いよく進む様子を表す「ばくしん」として昔からある語は「驀進」ですが、現在ではそれとは別の語として「爆進」も「あり」と考える人が多いようです。
「驀進」は昔からあるが…
「ばくしん」は「驀進」と書き、「まっしぐらに進むこと」(岩波国語辞典8版)と説明されます。日本国語大辞典(2版)には江戸時代の用例が載っており、それなりに昔からある語ですが、「驀」の字が常用漢字表に入っていないため新聞で使われることはほとんどありません。毎日新聞用語集では
ばくしん (驀進、▲爆進)→突進、猛進、まっしぐら
と言い換えを促していますが、「ばく進」という交ぜ書きも見かけます。用語集の▲は「誤った表記」の記号。「驀進」のつもりで「爆進」と書くのは誤りと見なされます。
しかし今回のアンケートでは「爆進」を造語として捉える人が、「驀進」の誤記と見なす人を大きく上回りました。確かに、出題者の個人的な感覚としては近年――といっても21世紀に入った頃からか――「爆」を使う言葉は目立って増えたように感じられます。
造語成分としての「爆」
三省堂国語辞典は7版(2014年)から「爆」という項目を置いており、8版(22年)でも説明はほぼ踏襲されています。俗用と断りながら、造語成分として語頭に付き「激しく。たいへん」という意味を添えると説明しており、用例には「爆売れ・爆食い・爆安・爆増」とあります。
三国8版は見出し語としても「爆上げ、爆食、爆睡、爆速、爆誕、爆釣、爆騰」といった語を採録しており、いずれも程度の甚だしさを示す「爆」の例です。ひところ話題になった「爆買い」なんかも同類でしょう。こうした語を並べてみると、そこに「爆進」が加わったとしてもさほど違和感はありません。「爆速」は「ものすごい速さ」ですから、「爆進」も「ものすごい勢いで進むこと」ぐらいに捉えてよさそうに思えます。
あえて使う必要はあるか
ただし、「爆進」のように、見慣れないけれど造語として考えれば意味は分かる、という言葉をどの程度の範囲で使ってもよいかは検討の余地がありそうです。くだけた会話やインターネット上のチャットなどでは問題ないでしょう。しかしこれを不特定多数の読者に向けたメディアで使うことが望ましいかどうか。
今回の質問のきっかけは新聞のスポーツ面の見出しで、日ごろから語呂合わせや言葉遊びの目立つスペースなので許容できる、という見方もあるでしょうか。しかし、特に語呂合わせにもなっていない、誤記と紛らわしい造語を使う理由があるかというと、ちょっと考えてしまいます。多くの人の目に触れる場面であえて使うならば、その必要性をよく考えるからにすべきでしょう。
(2023年10月09日)
阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を決めた翌日のスポーツ面に、一部の地域で「猛虎爆進」という見出しが載りました。本来、勢いよく進む様子を表す「ばくしん」は「驀進」と書きます。ただし、「驀」は常用漢字表にない文字で、新聞では基本的に使用しません。
毎日新聞用語集は「ばくしん」の項目で「ばくしん(驀進、▲爆進)→突進、猛進、まっしぐら」と言い換えを案内しています。▲は誤った表記を示す記号で、毎日新聞では使用しない書き方です。明鏡国語辞典(3版)も「勢いよく進む意を込めた『爆進』の表記も見られるが、誤り」とバッサリ。出題者にも「爆進」の見出しは誤字に見えて気になりました。
ただし、近年は「〔おどろくようなものが〕誕生すること」(三省堂国語辞典8版)と説明される「爆誕」のような新語も登場。また「猛烈に走ること」(岩波国語辞典8版)とされる「爆走」のように、「爆」が勢いの激しさを表す文字として使われる傾向もあります。スポーツ面からは最終的に「爆進」の見出しは消えましたが、どう受け止められるものかは気になりました。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2023年09月25日)