「重宝する」の使い方について伺いました。
目次
多数派は「~を重宝する」
仕事の時は、この辞書「○」重宝している――カギカッコの中に入るのは… |
が 25.9% |
を 60.1% |
上二つのいずれでもよい 4% |
上二つのいずれでもよいが、使い分ける 10.1% |
何かを便利に使うことについていう「重宝する」は自動詞・他動詞どちらの形をとるか伺ったところ、「~を重宝する」という他動詞の形を選んだ人が6割を占めました。「~が重宝する」という自動詞の形は4分の1ほど。ただし、辞書によっては「自他」両用の動詞としているものもあり、どちらかを強く否定する根拠はなさそうです。
「便利」に近いが動名詞化する
「重宝」は「調法」とも書きますが、ここでは現在よく使われる「重宝」の表記を使います。意味としては「使って便利なこと。便利だと思って利用すること。調法。『皆に重宝がられる人物』」(岩波国語辞典8版)といったところ。「便利」に通じるものですが、「便利だということ自体よりも、そのために助かっているという意味合いが強く、それだけ主観的」(中村明「日本語語感の辞典」岩波書店)と言います。
「便利」と同様「重宝な~」「重宝だ」といった形で形容動詞として使われますし、そちらがむしろ本来かもしれません。岩波の例文のように「重宝がる」という形でもよく使われていましたが、「重宝する」と動名詞としても使われるところが「便利」との大きな違いでしょうか。
「重宝する」という形について、国語辞典の例文を見てみます。自他の記載がある場合にはそれも付記します(岩波は「~する」の用例なしで自他動詞と記載)。
・普段から重宝している電子手帳(明鏡国語辞典3版、他動詞)
・この大きさの封筒は重宝している(大辞林4版、記載なし)
・重宝している辞書(大辞泉2版、記載なし)
・もらった品を重宝している(三省堂国語辞典8版、他動詞)
・この辞書は用例が多くて重宝している(新明解国語辞典8版、自他動詞 ※もとの表記は「調法」)
・このいただいた品はちょうほうしています(日本国語大辞典2版、記載なし)
「電子手帳」ですか……というのはともかく、6例中「を」が一つ、「は」が三つ、主語・目的語なしが二つ。「は」は大辞林の例のように「が」と置き換えられそうな場合もありますが、日国の例ではやや微妙です。三省堂の例は「は」に置き換えられそうで、「重宝する」は明確な目的語や主語を付けない方が使いやすいのかもしれません。
「~が重宝される」の形が多い
毎日新聞の記事データベースでは、「が重宝し/す」39件、「を重宝し/す」が34件と、ほぼ同程度に使われています。ただし一方で、「が重宝され」という形が77件。「日本では長くハンコが重宝されてきた」のような形は、言い換えれば「ハンコを重宝してきた」ということですから、他動詞として意識されることのほうがやや多いのかもしれません。
もっとも「が」と「を」の交代自体は、よく見られるものです。「実現」ならば、辞書には「夢が実現する」「要求を実現する」のような例がありますし、「完成」「開会」「決定」など自他両用の動詞も多数あります。「重宝」の場合は特に、単に便利に使えるというにとどまらず、その道具が便利であって役に立つ、助かるというところまでニュアンスが及ぶので、「~が重宝する」という形にすることで、対象の性質を際立たせる言い方があってもおかしくはないでしょう。
どちらでも問題なさそう
アンケートでは「~を重宝する」が多かったものの、「~が」を否定するほどの根拠は見当たりません。仮に原稿で「~が重宝する」と書かれてあったとしても、これを「を」とするほどの直しは必要ないと考えます。
出題者の気持ちとしては「いずれでもよい」が優位だったのでしたが、これがわずか4%だったのは意外でした。「使い分ける」という回答が1割程度あったことも少し気になります。どういう使い分けなのか。質問文の場合であれば、辞書の重宝ぶりを強調するならば「~が」ということになるのかもしれません。どちらでもよさそうな言い回しであっても、全く同じであるわけではないというのは確かです。場合によっては使い分けが意識されることもありうるでしょうか。
(2023年06月08日)
「重宝する」という動名詞は自動詞として使うか、他動詞かという質問です。「重宝」は元々は文字通り「貴重な宝物」(日本国語大辞典2版)という意味です。そこから「珍重すること。心にとめてたいせつに取り扱うこと」(同)としても使われるようになりました。しかし、現在よく使われる「便利で都合のよいものと感じて使うこと」(同)としての「重宝する」は比較的最近の言い方のようです。▲三省堂国語辞典(8版)や明鏡国語辞典(3版)は他動詞としていますが、新明解国語辞典(8版)や岩波国語辞典(8版)は自他動詞としており、辞書でも見解が分かれるようです。まだ用法として安定していないということかもしれません。▲他動詞とする見解は、旧来の「珍重する」という意味での用法を受け継いでいるようです。一方で「重宝な」のような形容動詞としての使い方では「この辞書は重宝なものだ」などとなりますから、動詞化した場合も自動詞になるのは不思議でないと言えそうです。出題者としてはどちらも使えそうだと感じますが、皆さんはどう考えるでしょうか。
(2023年05月15日)