「毎日小学生新聞」には漢字に読み仮名(ルビ)を振っていますが、パソコン上で自動的にルビを付ける機能を使っています。ところがしばしば間違ったルビになり、トラップだらけなので校閲は気が抜けません。
小学生向けの日刊紙「毎日小学生新聞」は原則としてすべての漢字に読み仮名(ルビ)が付きます。一つ一つルビを手で入力するのは大変なので、パソコン上で自動的にルビを振る機能を使っています。ところが、思いもかけないような変なルビになることが少なくありません。
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「自然に親しみ」がなぜか…
最近は、次の文章で1カ所誤りがありました。
最後から2行目の「自然」のルビが「じねん」になっています。その前に何度も出てくる「自然」は間違いなく「しぜん」と振られているのに、なぜこういうことに?
社有パソコンでルビの機能を試してみると、単に「自然」では「しぜん」のルビが付きますが、「自然に」だと「じねん」と振られ、機械は「しぜんに」変換するのが嫌いなひねくれ者なのか?と思ってしまいました。
「自然」を「じねん」と読むケースがあることは知っていました。「自然薯(じねんじょ)」が思い出されます。宗教関係では「じねん」と読むことが多いことも知っていました。自をシ、然をネンと読むのはいわゆる「呉音」で、宗教がからむ語に多いということも。しかし一般的な自然の使い方で、「しぜんいさん」「しぜん」や……ときて、最後だけ「じねん」になるのはどういうトラップ(わな)でしょう。
技術的なことは何も知りませんが、大辞林で「じねん」を引いてその秘密の一端に触れた気がしました。子項目として「―に」つまり「じねんに」が載っているのです。意味は「しぜんに」「おのずから」。そのせいかは分かりませんが、手持ちのパソコンで「じねんに」を変換させても一発で「自然に」が出てきます。
実は、こういうルビ機能の不備はけっこうあり、技術部門にまとめて改修をお願いすることがあるのです。
次に二つ間違いの例を挙げます。正しくはどういうルビになるでしょう。
「雪の女王」のわな
字が小さくて老眼の方には見づらいと思いますが、実際に毎日小学生新聞の校閲は年配が多く就くので、目を紙にくっつかんばかりに近づけたり画面を拡大させたりして、目の筋肉を酷使しています。それでも見逃すことはありますが、幸いいずれも紙面になる前に直せました。
まずアニメ「アナと雪の女王」のルビのケースです。これは作品名ですが、エリザベス女王や一般語としての「女王」も同じようによく間違えられます。
「じょうおう」は「じょおう」に直すべきです。えっ、「アナとゆきのじょうおう」じゃないの?と思ったアナタ、パソコンで「じょうおう」と入力してみてください。出ないでしょう。なに? 「女王」も変換候補に出る? うーん、これだから機械は信用できませんわな。
では辞書を引きましょう。明鏡国語辞典の「じょおう【女王】」の項には「『じょうおう』は誤り」と明記しています。また、常用漢字表には「女」に「じょう」の読みはなく、学校では「じょおう」としか教えていないはずです。国語のテストで「じょうおう」と答えれば×になるでしょう。
国立というが国立じゃなく国立にもない
もう一つ、プロフィルの誤りですが、分かりましたか?
国立音楽大学は東京都にある私立大学で、国立大学ではありません。
1926年に国鉄中央線の国分寺駅と立川市の間に新駅を造ることになり、国分寺の「国」と立川の「立」を合わせて「国立(くにたち)駅」となったことが地名の由来です。当時の村会で町の名前も「国立」になり、市名に引き継がれました。そして国立音楽大学は今は立川市にありますが、大学名が定まった時は国立市にありました。
だから正解は、国立音楽大学の「こくりつ」が「くにたち」になればいいのです。
ちなみに、一橋大学は国立市に本部を置く国立大学です。あーややこしい。
大人向けの一般紙ではルビが載ることがあまりないのですが、「国立(くにたち)」についてはいつも振ってほしいと思うこともあります。
【岩佐義樹】