「施行」と「施工」をそれぞれどう読むか伺いました。
目次
7割は「施行=しこう/施工=せこう」
「施行」と「施工」――どう読みますか? |
いずれも「しこう」 5.8% |
「施行」は「しこう」、「施工」は「せこう」 68.5% |
「施行」は「せこう」、「施工」は「しこう」 4.8% |
いずれも「せこう」 20.9% |
法律などに効力を持たせる「施行」と、工事を行う「施工」をそれぞれどう読むかは、「施行=しこう/施工=せこう」という人が最多で、7割近くを占めました。次に多かったのはともに「せこう」と読むという人で約2割。出題者としては、納得のいく傾向の表れ方でした。
読み分けが定着
いずれの語も「しこう/せこう」ともに間違った読みとは言えません。「施」の音読み「セ」は慣用音とされますが、円満字二郎さんによると「奈良時代以前からある古い読み方」(「漢字ときあかし辞典」研究社)で、「布施(ふせ)」「施錠(せじょう)」などでなじみのあるものですから、この音自体を問題視する必要はなさそうです。
アンケートで約7割が「施行=しこう/施工=せこう」と読み分けるという結果になったのは、テレビ等において既に読み分けが成立しているからだろうと思います。日本新聞協会の「新聞用語集」は「放送で標準とする読み方例」の欄で、「施行 ○シコー ×セコー 〔「施工」は「セコー」〕」としています。この場合の「×」は誤りということではなく、放送では使わない読み方という趣旨です。
辞書類も「施工」について「本来は『しこう』と読むが、『施行(しこう)』と区別するために、ふつう『せこう』と言う」(三省堂現代新国語辞典6版)、「『施行』と区別するために『せこう』と読む慣用もある」(現代国語例解辞典5版)など、読み分けが定着していることを示しています。
「施行=せこう」とする慣用も
一方で、新明解国語辞典8版は「せこう【施行】」の項目で「『しこう』の、法律語としての読み」としており、特定の場面では「施行=せこう」の読みが多く使われることを示唆します。もっとも法律関係の辞書でも、「有斐閣法律用語辞典4版」は「しこう【施行】」の項目で「『せこう』ともいわれる」と書くにとどめており、「せこう」一色ということではないかもしれません。
明鏡国語辞典3版は「しこう【施行】」の項目で「『執行』と区別するために官庁などでは『せこう』ということが多い」とします。役所など法律を扱うことが多い場所では、一般とは異なる読み習わしがあるのは確かなようです。「施行」「施工」のいずれも「せこう」と読む、と答えた人が2番目に多かったというのも、そうした事情があるためでしょう。
今回のアンケートでは、放送で使われる「施行=しこう/施工=せこう」という読み分けが一般的にも浸透していることがうかがえました。新聞は読み方をそれほど気にする必要がないメディアではありますが、用語の指針づくりに当たっては、読み方を放置するということはできません。今回の結果も今後のために活用したいと考えます。
(2021年11月09日)
毎日新聞用語集で「せこう」から「施行(主に法令の効力を発生させること)」「施工(工事をすること)」を引こうとすると、「施工・施行=『しこう』の項参照」と誘導されます。本項目は「しこう」だということです。▲文化庁の「言葉に関する問答集1」(1975年)は「『施行』は『シコウ』か『セコウ』か」という項目で「『シ』は漢音、『セ』は慣用音である。したがって、普通には、『シコウ』と読んで、主に公共機関の事業を行うことに使う場合が多い」と説明します。用語集が「しこう」を本項目としているのも理由のあることと言えそうです。▲ただし問答集は「『施工(シコウ)』を『セコウ』と読み、『施行(シコウ)』と区別する習慣もある」と言い、NHKも「ことばのハンドブック第2版」の「施行」の項目で「読み▷○シコー ×セコー(『施工』は〔セコー〕)」としています。二つの言葉を音で分かるように読み分けており、こうした使い分けが一般的にもなじむものかもしれません。いかがでしょうか。
(2021年10月21日)