読めますか? テーマは〈忠告〉です。
目次
耳に払らう
みみにさからう
(正解率 60%)ありがたい忠告は耳に痛いこと。「払らう」は「逆らう」と同じ。「韓非子」に「忠言は耳に払らう」と出てくる。なお「払」を「代金を支払う」「敬意を払う」などのように使うのは日本的用法という。
(2015年09月07日)
選択肢と回答割合
みみにさからう | 60% |
みみにはらう | 17% |
みみにさすらう | 22% |
頂門の一針
ちょうもんのいっしん
(正解率 57%)人の痛いところを突いた忠告や教訓。「頂門」は頭の上を指す。中曽根康弘元首相は1992年、しんきゅうのハリを自分の首に打ったまま寝てしまい、入り込んだハリを手術で抜いた。退院時「時局重大の折、頂門の一針だよ」と言ったとか。
(2015年09月08日)
選択肢と回答割合
ちょうもんのいっしん | 57% |
ちょうもんのひとはり | 26% |
ていもんのいっしん | 17% |
面を冒す
おもてをおかす
(正解率 67%)上位の人に、その意向に逆らうのを承知で忠告すること。「おもて」は「顔」のこと。「犯す」と書いた用例もあるが、「冒す」は「あえてする」という意味合いがあるので新聞としては「冒す」と規定している。
(2015年09月09日)
選択肢と回答割合
おもてをおかす | 67% |
つらをおかす | 6% |
めんをおかす | 27% |
諫言
かんげん
(正解率 77%)上位の人に、その意向に逆らうのを承知で忠告すること。和語では「諫(いさ)める」。それをする臣下がいれば国は安泰という意味の「国に諫むる臣あればその国必ず安し」という言葉があるが、今そんな部下は?
(2015年09月10日)
選択肢と回答割合
かんげん | 77% |
ざんげん | 14% |
とうげん | 9% |
雖も
いえども
(正解率 64%)「といっても」という逆接の言葉。安倍晋三首相は今「千万人と雖も吾(われ)ゆかん」(孟子)、つまり安全保障関連法案に反対する人が何万人いようと信念を貫くという心情か。しかし、中国の兵書「司馬法」はこう忠告する。「国、大なりと雖も戦いを好めば必ず亡(ほろ)ぶ」
(2015年09月11日)
選択肢と回答割合
あたかも | 34% |
いえども | 64% |
たれも | 3% |
◇結果とテーマの解説
(2015年09月20日)
この週は「忠告」がテーマでしたが、二転三転しぎりぎりまで選定に悩んだ週でした。たまにはどうやって決めているかという悪戦苦闘の過程を紹介しましょう。
まず出題の週にどんな年中行事や記念日があるか、共同通信社発行の「共同通信ニュース予定2015」やインターネットなどで調べます。9月半ばには敬老の日、秋分の日などの休日があるのですが9月初めは特に大きなイベントなどはありません。歳時記もよくネタ元にしますが、まだ秋になりきっていない時期なので秋の季語ももう少し後の方がいいかも。台風シーズンですが風の関連語は今までも何度かやってきて、風の語彙が豊富な日本語といえどもさすがに新たに五つ探すのは難しい。
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そこで最近のニュースから考えます。ちょうど五輪エンブレムが話題になっていたので「模倣」「酷似」などのテーマはどうか。しかし類語の難読語が五つも集まりそうにないうえ、たとえば「剽窃」などを出題するのは、デザイナー側が否定しているのでいかがなものかと思いました。その他、五輪問題にからんではいろいろ考えましたが、いずれも納得がいきません。
そこで自民党総裁選が無投票に終わりそうだったこともあり「今の自民党には首相を諫める人はいない」という声がしばしば聞かれることから、「諫める」というテーマではどうかと思いました。
当初「諫める」の語でも出題しかけたのですが、既出だったことが同僚の指摘で分かり、急きょ「諫言」に変えました。長く続けていると自分で出題した語も忘れていることがあります。ちなみに「諫言耳が痛い」というのはアニメ「風の谷のナウシカ」でクシャナがユパに言ったせりふに出てきました。クシャナというのは大国の若い姫で、ユパは年配の名剣士。ユパはクシャナの臣下ではありませんが、「(ユパの)諫言」が「(クシャナの)耳が痛い」という言葉からは、クシャナの意識における上下関係がうかがえます。なぜなら「いさめる」もそうですが、「諫言」は上位の者に意見する言葉として使われるからです。
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「面を冒す」というのは実は「毎日新聞用語集」の「おかす」の漢字の使い分け例の一つとして載っています。初め見たときは何と読むのか分からなかったので、いつか当漢字クイズにと思っていました。今回の正解率は予想より良いので、意外に知られた言葉なのでしょうか。
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「耳に払らう」も3択のうちの消去の結果かもしれませんが、今はまれな表記の割に読めています。このネタ元は「楽しく使える故事熟語」(文春文庫)で、さらにその由来は「韓非子」。もちろん原典がどうあれ今は「耳に逆らう」と書いても問題ありません。
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「雖も」は偶然「故事・俗信ことわざ大辞典」(小学館)の「国」の項を見て「国大なりと雖も戦いを好めば必ず滅ぶ」という言葉に合い、「おお、安倍首相の好きな『千万人と雖も吾ゆかん』に対置するにぴったりの名言だ」と思いました。発表後、個人のブログで「あまりにも時期と意味がピッタリなので思わず笑って仕舞った」という反応を頂きました。
「頂門の一針」が今回最も低い数字になるとは思ってもいませんでした。最も素直な読みのはずですが、この言葉があまり知られていないことと、「ちょうもんのいっしん」では簡単すぎるので違う選択肢を選んだ人が多いことによる結果と思われます。
「頂門の一針」も「耳に払らう」も「はり」が関連する言葉。「はり」は一時的に痛くても体を治癒します。このように、組織のトップには耳に痛い忠言こそが必要ということで「忠告」というテーマに落ち着いたのです。苦労した分、それなりに達成感もあった週でした。