西部本社(北九州市)が発行する新聞を読んでいて、どうにも不思議だったのが島根県の扱いである。福岡県と関門海峡を挟んだ山口県は「九州・山口」という経済圏のとらえ方で理解はできるが、島根に親近感を抱く九州人は限られるのではないだろうか。にもかかわらず、高校野球などでは“地元”扱いである。
新聞社に入って、その理由が分かった。島根の西半分に西部本社発行の新聞が届けられるからなのだ。新聞輸送上、印刷工場との距離の関係で東半分は大阪本社版を届けるという微妙な地区になっていた。
そして、島根は隣り合う鳥取県ともよく混同される。「鳥取県の宍道湖」(2012年7月)と西部本社出稿のまま通してしまい、大阪校閲から指摘を受けて最終版でようやく直った苦衷の記憶はまだ新しい。鳥取県と信じ込んではいけない。出だしの本文1行目は正しいのに編集者が勘違いした見出し「島根・南部町」(08年10月)の紙面化も痛かった。
鉛活字時代だけだと思われた「鳥根」「島取」の誤植も21世紀に入って発生しているのはなぜだろうか。アマ本因坊戦の勝敗で「鳥根」(09年8月)が早版で出てしまった。
他紙でも登山家・岩崎元郎さんが選んだ「新・日本百名山」に付けられた表(04年10月)を見て驚かされた。「島根」の横に「島取」が並んでいる。
「鳥」と「島」は確かに似ている。プロ野球・阪神タイガースの鳥谷敬選手の姓を初め見た時は、“トリタニ”ではなく“シマタニ”と勘違いした。というのも、1970年代に中日ドラゴンズと阪急ブレーブスで活躍した島谷金二さんの印象が強かったからである。しかし今は「島谷」の文字が「鳥谷」に見えるほど、私の中で気持ちは逆転した。だが、北九州市にある白島石油備蓄基地を「白鳥」(06年8月)と間違えてはならない。この基地は「シラシマ」と読む。
「鳥」は象形文字。一方、「島」は「渡り鳥がよりどころとして休む海中の山、しまの意味を表す」(漢語林)形声文字である。だから固有名詞に見られる「嶋」「嶌」は「島」と同字なのだ。ところが、ツシマだからといって地図を「対島」(04年10月)と誤ってはまずい。「冬のソナタ」のラストシーンが撮影された外島(ウェド)を取り上げた記事で、外島のそばの巨済島(コジェド)もあるものだから、つい「対馬」を「対島」としてしまったのだろう。
「離党振興法」(05年3月)は、むろん「離島振興法」。同音異義のシマらない誤植である。さりとて「鹿児県」(15年6月)と“島流し”を許しては読者に面目がない。
【林田英明】