「けれん味のある演技」という使い方をどう受け止めるかについて伺いました。
「けれん味がある演技」は褒め言葉が4割
「けれん味のある演技」といったらどういう評価でしょう? |
褒めている 44.4% |
批判している 14% |
文脈による 28.6% |
意味が分からない 13.1% |
4割以上の人が「けれん味がある演技」を褒め言葉として受け取り、多数派でした。しかし3割近くは文脈で判断するとのこと。芸能記事では「けれん味」が肯定的に使われることが多いけれども、辞書に載っている「はったり、ごまかし」といったマイナスの意味もあるという両様性を反映しているようです。
なかにし礼さんが「サンデー毎日」で、「スーパー歌舞伎」を創始した三代目市川猿之助をたたえる中で、この言葉に言及していました。
「ケレン味がない」という形容は真面目な人、ごまかしのない人という褒め言葉の意味となっている。……一般社会ではたとえそうであっても、芸能の世界では「ケレン味がない」という言葉の意味は違ってくる。それは面白みのない、代わりばえのしない、新味に欠けた、平板な、常識的な芸を評した言葉になり、決して褒め言葉の意味で使われることはない。
2018年6月24日号
芸能の世界に身を置く方の文章ですから重みがあります。現場で実際に使われている言葉の意味と辞書の語釈がずれてしまう例でしょう。
逆に「けれん味がない」が褒め言葉としてよく用いられるのは相撲です。たとえば今年の名古屋場所で優勝した御嶽海関について、毎日新聞では昨年の記事で「突き押しを武器とするけれんみのない取り口で好角家をうならせ……」と評価していました。このように、小手先の技に頼らず真っ向勝負をする力士について「けれん味のない取り口」とプラスに捉える使い方がほとんどです。
アンケートでは「意味が分からない」という人も1割以上いました。これは言葉に興味があるはずの回答者の中での割合ですから、一般的には理解されないことがもっと多そうです。場面によって評価が変わりうる言葉だということも踏まえて、言葉を補って説明しながら用いるほうが親切かもしれません。
(2018年08月17日)
映画の評論記事で、ケネス・ブラナーさんが「けれん味と威厳たっぷりに」名探偵ポワロを演じた、と書かれていました。広辞苑(7版)では「けれん味」を「俗受けをねらったいやらしさ。はったり。ごまかし」とかなりマイナス方向に評価しています。大辞林(3版)でも「はったりやごまかし」という語釈に「-のない芸」という用例を続けており、けれん味のない芸こそが良い演技なのではと思えてしまいます。
「けれん」は演劇、特に歌舞伎でよく使われる用語で、「定格を外れ、見た目本位の奇抜さをねらった演技や演出」(平凡社「歌舞伎事典」)。例えば綱渡りや宙乗りなどで観客を沸かせるものです。つまり正統派の芸ではないのですが、「歌舞伎にとっては<見せる>という、大切な要素を受け持つもの」(同)でもあります。王道でないことを批判する文脈でなければ、「けれん味がある」は良い評価で使われることが多い気がします。
冒頭の記事については、「けれん味」と「威厳」が両立するのだろうかと思い筆者側に確認しましたが、そのままの表現でOKとのこと。オーバーアクション気味ながらも威厳を失わず、観客が楽しめる演技だったのでしょう。
(2018年07月30日)