女性の場合の「俳優」と「女優」をどう使い分けているのか、というご質問を頂いたことがあります。
現在のところ、毎日新聞紙面では両方を使っていて、使い分けの決まりはありません。
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「俳優」は古くから使われた語
もともと言葉の成り立ちとしては「俳優」が古く、平安時代の辞書「色葉字類抄」に「俳優 ハイイウ」と記述されています。また「俳優」には「わざおぎ」という訓もあり、古くから役者さんを指して使われていました。
明治になると、たとえば薄田泣菫が大阪毎日新聞に連載していたエッセー「茶話」には1916年の文章に「俳優」が出てきますが、振り仮名は「やくしゃ」となっています。
明治になって生まれた「女優」
江戸時代にはプロの役者さんは男性のみでしたので、明治になって女性の俳優さんが登場したときには別の単語が必要で、「女優」という言葉が生まれたのだと思います。
そして外国語の影響もあり(たぶんactor、actressに対応させようとして)、「男優」は「女優」に対する言葉として生まれたのではないでしょうか。
辞書の用例を見ますと、「女優」の古い例は森鷗外の「舞姫」(1890年)、明治39(1906)年9月13日付の日刊新聞・万朝報、有島武郎の「或る女」(1919年)など19世紀末から20世紀初頭なのに対し、「男優」は泣菫の「茶話・名女優の冷笑」(1918年9月1日大阪毎日新聞夕刊)、寺田寅彦の「映画時代」(1930年)、川端康成の「寝顔」(1933年)と少し遅いのです。
「女優」という言葉ができた当時、「俳優」は男性と意識されていたでしょうから、「男優」の成り立ちは少し後になったのだと思います。その分、「女優」のほうが「男優」より言葉としての浸透度も深く、多くの人に使われてきました。
今は、なるべく「俳優」にするが…
現在は、学芸部の担当記者に聞いてみますと、「女優と言われるのは嫌」とはっきり意思表示をする方がいらっしゃる半面、「私は女優」と強く打ち出される方もいらっしゃるそうです。ですから一律な線引きは難しく、また、全ての方のご要望に応えることは物理的に難しいのです。
ただ、一般的には「俳優」とするよう心がけている、ということでしたので、かつてよりは女性の方についても「俳優」と書くことが増えていると思います。
ただ、プロフィルの記事では映画賞や演劇賞などの受賞歴を紹介することが多いのですが、多くの賞の名前が「女優賞」「男優賞」となっているので、どうしても混在することになってしまいます。
一律には決められず、記事のいろいろな要素を考慮してケース・バイ・ケースというのが現状なのです。
【松居秀記】