文章の中で、再出した人について触れる際の表現で伺いました。
目次
回答は真っ二つに
文中に一度登場した人物Aさんについて、同じ文章の後段で再び言及する時―― |
「前述のAさん」と書く 39.8% |
「前出のAさん」と書く 41.1% |
どちらも同じ意味で使う 13.2% |
別の表現の方がよい 5.8% |
予想以上の接戦で、「前述」を使う人と「前出」を使う人がほぼ同数という結果に。「前出」派がわずかに上回ったものの、真っ二つに意見が割れました。「どちらも同じ意味で使う」との回答も1割超。どちらを使ってもよいという結果に見えますが、そうであればこそ、納得してどちらかを選びたいとも思います。
「前述の~」は広い範囲を指す傾向
毎日新聞のデータベースで2010~20年の間に紙面に掲載された例を調べると、「前述の~」が442件、「前出の~」は387件。このうち、「~さん、~氏、男性、女性、関係者、知人、~教授」など「人物」を表す語が後ろに続いた例は、「前述の」で63件、「前出の」で288件ありました。
単純に「(さきに紹介した)Aさん」と言いたい時は、「前出」が使われるケースが圧倒的に多いようです。一方で「前述」は、「前述の通り/前述のように(~である)」の形が多く、対象も人物に限定せずに、それまでの経緯や出来事の背景などを幅広く指して使われていました。
ピンポイントで指定するなら「前出の~」
熟語を構成する、「述」と「出」の字による印象の違いが、使用実態にも表れているように思います。「述べる」は「順を追って説く。説明する」(日本国語大辞典)の意なので、指し示す対象が広く、時間的な幅のある内容になります。「出る/出す」は「述べる」に比べると範囲が狭く、時間軸のある一点の動きであるため、人や事物をピンポイントで指すのに適しているというようなイメージでしょうか。
とはいえ、はっきりと基準を設けて使い分けができるものではなく、過去紙面での掲載例だけを見ても、二つはかなり似通った使われ方をしています。辞書の定義も「【前述】文章で、それより前に述べてあること。先述」「【前出】文章などで、それより前に示してあること。また、そのもの」(明鏡国語辞典第3版)などとされており、ほとんど同じ意味で使えそうです。
意識して選択したい
「前述」は経緯や内容を広く指し、「前出」は人や事物そのものをずばり指す――という大まかな傾向はありますが、境目は曖昧です。質問時の解説で出題者が違和感ありとした「前述のAさん」という書き方でも、「前述の(こういった経歴でこんな意見を持った)Aさん」などという流れがあれば、違和感は小さいかもしれません。どちらを使ってもよく、指し示して伝えたい内容と、書き手の好みなどにより選択されているのが実態でしょう。
アンケートに回答してくださった方の大半が「どちらも同じ」とはせず、「前述」「前出」のいずれかを選び、両者が拮抗(きっこう)する結果となったことを興味深く感じます。短い質問文では具体的な文脈がなく、「Aさん」がどんな人物であるのかも示せませんでしたが、「どちらかといえばこちら」と選んだ回答の背景にはそれぞれ理由や根拠があったのだろうと想像します。
どちらでもよいと思って「前出」を選んだら、4割の読者に「『前述』の方がよかったのに……」と違和感を持たれると考えると恐ろしいですが、何気ない言葉の選択にも注意して原稿と向き合っていきたいと改めて思いました。
(2021年07月30日)
たとえば「毎日大学の鈴木花子教授」のような人物について、同一の記事中で繰り返し言及する場合、2度目以降は所属や肩書、下の名前を省いて「(さきに紹介した)鈴木さん」のような書き方になります。このとき、「前述の鈴木さん」と書いてあると出題者は少し違和感を覚え、「前出」の方がいいかな……と思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。「人を述べる」とは言わないためか、人を対象に取っていると変な感じがしてしまいます。
広辞苑によると、前述=「すでに前に述べたこと。既述。先述。前陳」、前出=「(論文などで)その箇所より前に掲出してあること。前掲」。ほとんど同じ意味で使えそうですが、出題者の個人的な感覚では、「前述」は前に述べた経緯や内容を広く指し、「前出」は人や事物をピンポイントで指すような印象がうっすらあります。上の例で言うと「前述の鈴木さん」には違和感があるものの、「前述の鈴木さんの主張」などであれば、「前述」が「鈴木さん」(人)ではなく「主張」(内容)にかかるため、引っかかりがなくなります。
出題者の好みに過ぎないような気がしますが、皆さんのご意見をお聞かせください。
(2021年07月12日)