現金を機械などでおろす場合の表現について伺いました。
目次
大多数は「引き出す」を選択
ATMなどで口座から現金をおろすこと。どう言いますか? |
引き落とす 4.3% |
引き出す 93.4% |
上のどちらでもよい 2.3% |
現金自動受払機(ATM)からお金をおろすことについて、ほとんどの人は「引き出す」を使うと回答しました。常識的に「引き落とす」は使わない、という結果ですが、現にそう書かれた原稿を見ることもあるのはなぜか。もしかすると警察発表の影響を受けているのかもしれません。
通常の用語は「引き出す」
国語辞典を引くと、「引き出す」の項目の中に「預金や貯金を下ろす」(明鏡国語辞典3版)、「銀行などから預金をおろす」(岩波国語辞典8版)とあります。ATMなどからお金をおろす場合の言い方は、やはりこちらが標準的でしょう。「引き落とす」の方は「公共料金などを、支払人の預金口座から受取人の口座へ送金する」(明鏡)などと説明。お金を口座から口座へと、紙幣などの形にすることなく、直接やり取りする場合に使われます。
警察発表を引き写したか…
原稿でどんなふうに間違えられるか。以下に例を引くと――。
(だましてカードを盗む)詐欺盗には被害の発覚を遅らせる狙いがあるとみられ、キャッシュカードが盗まれたことに気づかないままに多額の現金をATMで引き落とされてしまう。
●●署は7日、1人暮らしの女性(87)が新型コロナウイルスの感染拡大に便乗した詐欺被害に遭い、キャッシュカードで預金口座全額の127万9000円を引き落とされたと発表した。
(盗んだカードを)受け取った男がコンビニエンスストアの現金自動受払機(ATM)で、複数回に分けて女性の口座から約104万円を引き落としたという。
基本的には事件原稿です。もしかすると警察の発表が「引き落とす」になっており、そのままの言葉で記事を書いているのかもしれないと感じます。捜査の事実については多くの場合、警察が発表すること以上を知るのは難しいと考えますが、言葉遣いまでそれに従う必要はありません。読者にとって日常的な言葉を選ぶべきでしょう。
今後も「引き出す」に直します
校閲記者としては、「引き出す」とあるべき場面で「引き落とす」と書く原稿を少なからず見かけることが疑問でした。この入れ替わりは誤用だと考えますが、もしかすると、ある程度一般に広まってしまったものかと思い、今回質問で取り上げた次第です。しかし、皆さんの選択も辞書や当方の認識と同じであることが分かり、安心しました。今後も誤って「引き落とす」を使う原稿には、粛々と赤を入れていきたいと思います。
(2021年02月02日)
世の中キャッシュレス化が進んで、決済・支払いに現金が不要という場面も増えましたが、それでも現金自動受払機(ATM)からお金をおろすことがない、という人はいないのではないかと思います。
ATMを利用した犯罪というのも残念ながらよくある話で、新聞にも「ATMから、息子名義のキャッシュカードで現金約60万円を不正に『引き落とした』」といった記事が載ることもありますが……ここはやっぱり「引き出した」とすべきではないでしょうか。
辞書を見ると「引き落とす」は「公共料金などを、支払人の預金口座から受取人の口座へ送金する」、「引き出す」は「預金や貯金をおろす」とあります(明鏡国語辞典3版)。どちらもお金に関する用法なので混同が生じがちですが、お金を自分の手元におろす場合は「引き出す」でしょう。
とはいえ原稿の中ではよく見かける書き違えです。もしかすると「引き落とす」も意外に一般的に認められているのかもしれない、と思い伺ってみました。いかがでしょうか。
(2021年01月14日)