「公算」という言葉の使い方について伺いました。
「公算」は大小なしでも3分の2が「確率が高い」
法案が「成立する公算だ」とあればどう読みますか? |
成立の確率が高いという意味 65.8% |
成立の可能性があるという意味 12% |
言葉足らずに感じる 22.2% |
「~の公算だ」というだけでも、「その確率が高い」という意味で捉える方がおよそ3分の2を占めました。一方で2割の方が言葉足らずに感じるという回答でした。公算が大きいか小さいか言い切っていないので「可能性がある」ぐらいで受け取る方もそこそこいるのでは、と思っていましたが1割程度でした。
出題時の解説の通り「公算」は「確率」と同じ意味ですから、「~の公算だ」だけでは、厳密にはその確率が高いのか低いのかは表せません。しかし辞書を引いてみると、ほぼ全ての用例が公算「大」の方向を示すものでした。例外として「現代国語例解辞典」に「勝てる公算は全くない」とあり、「日本国語大辞典」には石川淳の著作からの例文で「あとからの箱にぶつかる公算のはうが大きいとしても、まへの箱にぶつかるといふ小さい公算もまたありえた」というものが見つかったぐらいです。
昨年1年間の毎日新聞の用例(東京本社版、地域面を除く)を検索してみても、111件の「公算」の使用例のうち「公算が小さい」が3件、「プラス成長になる公算だ」「撤退の公算」と大小を書かないものが2件、「~の公算が出てくる」と「可能性」という意味で使っているものが1件あった以外は全て「公算大」「公算が大きい」といった書き方でした。ちなみに毎日新聞用語集では、公算は「一般に大小で表現される」として「公算が強い」と書かずに「公算が大きい」とするよう定めています。
出題者は「~の公算だ」だけでは「言葉足らずに感じる」派であり、そう感じる今回の2割の方と同様、基本的には「大小」まで書いてほしいと思っています。しかしアンケートの結果、辞書の用例、新聞の使用実態を見ると、やはり「公算」といえば普通は確率が高いときに使う言葉のようです。
今回の例文であれば「与党に加え野党の一部も賛成しており、法案は成立する公算だ」など、確率が高いという意味が文脈上明らかならば、誤解の余地なく受け取ってもらえるのではと考えさせられました。
(2018年06月14日)
「公算が強い」は変で「公算が大きい」の方がよい、といった話が校閲記者の間ではよくされるのですが、そもそも「~の公算」で文章を終えてしまったり、見出しにしてしまったりする記事も見かけます。
「公算」とは「『確率』の古い言い方」(三省堂国語辞典)。とすると「成立する確率」で止めてしまっては意味がわかりませんから、「公算大」のようにきちんと最後まで書く必要がありそうです。
しかし実際に「日銀は金利を据え置く公算だ」「知事選はA氏とB氏の一騎打ちとなる公算」とあれば、「その確率は低い」という意味で受け取る人はほぼいないでしょう。ならば読者の「そんたく」に頼って略する……というのも許されるのでしょうか。
(2018年05月28日)