「仕事終わりに一杯」のような「終わり」の使い方についてうかがいました。
目次
「違和感あり」はわずか1割
「仕事終わりに一杯」などの使い方、どうでしょう? |
普通に使う 59.3% |
自分は使わないが、違和感はない 30.6% |
違和感あり。「仕事の後で一杯」などとすべきだ 10.1% |
今回の結果には驚きました。まさか「違和感あり」が1割程度とは。こんなにも「仕事終わりに」が受け入れられているとは。はっと気づけば、いつの間にか変わった言葉が定着していたという意味では「上から目線」に似たものがあります。
10年以上前、「上から目線」を原稿で見て「上からの目線」と「の」を入れようとして、当時既にデータベースにかなり使用例があったので断念しました。文法的には変なのですが、あっという間に広がり、今では広辞苑など少なからぬ国語辞典も採用しています。
「稽古終わりに」も登場
「仕事終わり」の使い方も、知らないうちに広がっていました。毎日新聞データベースで検索してたどれる最古の例は1995年、演劇評論家の落語をめぐるコラムに出てくる「仕事終わりの一杯がうまい」でした。21世紀に入り、記者の書いた原稿にもぽつぽつ現れるようになり、「仕事終わりに」「仕事終わりの」で計約130件になりました。
ただしこれは全国の地域面なども合わせた数で、地域面を除く東京本社管内本紙に限れば18件に絞られます。この数と今回の「普通に使う」「違和感はない」の数との落差はどういうことでしょう。おそらく、紙面に関わる人数が多くなるほど、新聞の文章としてはまだ不適当と考える記者、デスクらにより、結果的に避けられる場合が増えるのだろうと思います。
しかし、この「終わり」の使い方は「仕事終わり」に限りません。最近ではスポーツ面の相撲の記事で「稽古(けいこ)終わりに」が登場しました。「学校終わり」「会社終わり」はすぐ思いつきますが、そのほかにもいろいろなケースがあるのかもしれません。接尾語というと違うのですが、接尾語のようにいろいろな語と結びつく用法が広がっている可能性があります。
「仕事『の』終わり」では別の意味に?
ところで「仕事終わりに」を直すとするとどうすればよいでしょう。初めて見た頃はとっさに「仕事の終わりに」としようとしましたが、それでは意味が違ってきてしまいます。「仕事の終わり」だと仕事の最後の段階、あるいは終わる瞬間というイメージがあります。そうではなく「仕事終わりに」などは「仕事が完全に終わった後で」を意味するものがほとんどと思われます。だから「仕事終わりの一杯」は「仕事の後の一杯」「仕事が終わった後の一杯」などとするのが適切でしょう。
一方、「仕事終わりにかける言葉」というような使い方もネットではよく見られます。この場合の「仕事終わり」は多くの場合「お疲れ様でした」と言い合う終業時刻のことをいっているのでしょう。つまり「仕事終わり」というと「仕事の終わり」と「仕事の後」のどちらの意味で使っているのか混乱を来すことがあるかもしれません。
テレワークでは「仕事帰り」が使えない
では「仕事帰りに一杯」はどうか。通勤者の場合はそれでもいいのですが、家で仕事をしている人だと「帰り」が使えないという欠点があります。特に新型コロナウイルス対策としてテレワークが増えている現状では「仕事帰り」が使えないケースも多くなっているはずです。
だからといって「仕事終わり」が「仕事帰り」の代わりに使えるとはいえません。話し言葉で普通に使っていたとしても、特にオフィシャルな書き言葉では「仕事終わり」は避けるべきだと考えます。
(2021年01月29日)
今は新型コロナウイルス流行で「仕事終わりに一杯」と気軽に誘える状況ではなくなっているのですが、「仕事終わりに」の後は「映画」でも「どこにも行かない」でも何でもいいのです。問いたいのは、「終わり」が名詞の後にストレートに続く、接尾語的な使い方がどれだけ受け入れられているのかです。
以前、記事に「仕事終わりに」が出てきたとき、職場の若手に「普通に使う」と言われて衝撃を受けました。毎日新聞記事データベースで「仕事終わりに」「仕事終わりの」を検索すると100件以上あり、新聞でもこの使い方が増えていることが分かりました。テレビでは「保育園終わりに」という言葉を聞いたこともあります。
しかし、辞書で調べた限りでは「終わり」の接尾語的用法を記したものは今のところ見当たりません。文章としては「仕事の後で」「仕事が終わって」などとすべきだと思うのですが、いかがでしょう。
(2021年01月11日)