「回収」という言葉の使い方について伺いました。
目次
許容派が9割占める
一つしかないものを「回収する」。違和感ありますか? |
「回収」は集めて戻すことなので、おかしい 7.1% |
普通は集めることだが、単一のものに使う場合もある 34.4% |
単一のものが対象でも問題ない 58.6% |
回収という語を単一のものに使うことに関して、「問題ない」が6割弱、「使う場合もある」が3割強と、許容派が9割を占めました。
多くの辞書が「集める」と説明
質問のきっかけは、昨年12月に探査機「はやぶさ2」のカプセルを「回収した」と盛んに報じられるのを見たことでした。手近な辞書の多くは回収を「集める」意味合いに絡めて説明していますが、話題のカプセルは一つで、集めるという感じではありません。しかしこのニュースの言葉が問題視される気配はなく、問題があるとすれば辞書の語釈のほうなのだろうか、と気になったのです。
「いったん大勢の人に配られたり、拡散したりしたものを、また集めること。あちこちから集めて、もとへ返すこと」(日本国語大辞典2版)、「①いったん手元から離れ(ある役割を終え)たものを、集めてもとのところに戻すこと②ある目的のもとに取り集めること」(明鏡国語辞典3版)──。このように説明する辞書を眺めながら、出題者は「回」の字からの連想で「巡回」「回覧」などのように複数の関係先を巡るイメージが浮かび、だから「集める」につながるのではないかと考えました。
「回」は「戻す」の意
しかし、「新潮日本語漢字辞典」などで「回」の字に着目すると、「回収」の用例は「巡る」意味のところではなく、「回復」「挽回」などとともに「戻す」意味のところに分類されています。いったい「集める」意味合いがどこから来たのか、漢和辞典で突きとめることはできませんでした。
もう一度「明鏡」の記述に戻って、今度は用例を見てみますと……あれ? ①のところに「人工衛星の──に成功する」が挙げられています。複数の人工衛星を集めるケースがどれほどあるのか分かりませんが、これは単一のものでも回収と表現できる例と受け取ってよいのではないでしょうか。
実は、辞書によっては「一度ばらまかれたものや、手もとを離れたものを、とりもどすこと」(岩波国語辞典8版)、「①もとの所に戻しおさめること②あちこちから集めること」(新潮現代国語辞典)といったように必ずしも「集める」に限らない語釈も見られます。昭和初期に刊行された「大言海」が単に「トリモドスコト」とだけ記しているように、比較的古い辞書で単一のものに使えると解釈する傾向があるようにも思えます。
辞書の記述もまた変わるか
想像ですが、かつて複数のものを集める場面でもっぱら使われるように変化した時期があり、国語辞典の記述が影響を受けたということかもしれません。元々の字づらに「集める」の根拠は見当たらず、また現在の実際の使われ方や一般的な受け取られ方を見ても、単一のものにも使って差し支えないとすれば、いずれ辞書の説明もまた「脱・集める」の方向に変わっていくのではないか。今回のアンケートから、そんなふうに考えています。
(2020年01月12日)
先日は、小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルが地球に戻ってきたニュースでにぎわいました。そのカプセルを「回収」したとの表現で各メディアが報じましたが、この言葉の使い方に引っかかりを覚える人がどのくらいいるのかを探る質問です。
というのも、「回収」の説明として「いったん大勢の人に配られたり、拡散したりしたものを、また集めること。あちこちから集めて、もとへ返すこと」(日本国語大辞典2版)というように、「集める」意を強調する辞書が多いからです。カプセルは一つなので、集めるという感じではありません。
ただ、このニュースでおかしいと思った人はほとんどいないのではないかと想像します。辞書が想定していない使い方なのか。もっとぴったりした説明の仕方はあるのか。今回はそんなことを気にしてみました。
(2020年12月21日)