「義実家」という言葉について伺いました。
目次
「おかしい」が過半数だが…
夫ないし妻の実家のことを、一般名称として「義実家」と呼ぶのをどう感じますか? |
問題ない 14.4% |
違和感はあるが、他に呼び方がないので許容範囲 31.6% |
おかしい。他に呼び方はないが、使わない 7.9% |
おかしい。「夫ないし妻の実家」などを使う 46.1% |
「おかしい」とした人が過半数を占めましたが、「問題ない」と「許容範囲」という人を合わせると46%の人が「義実家」を使うことを認めています。やはり「他に呼び方がない」という事情が、この一見奇妙な言葉を流通させる背景にあるのでしょう。
21世紀に生まれた言葉
そもそも「義実家」はいつごろから使われ出した言葉なのか。1970年代から2000年代までの用例を集めた「現代日本語書き言葉均衡コーパス」少納言で検索すると、該当するのは2005年のYahoo!知恵袋と08年のYahoo!ブログの用例のみ。少納言が用例を採録しているのはいずれも当該年までなので、インターネットでもせいぜい05年ごろから使われ始めた言葉と言えそうです。
そもそも「配偶者の実家」という考え方が、比較的新しいものなのでしょう。家制度のもとで「嫁入り/婿入り」が当たり前だった時代であれば、嫁いだ/婿入りした人は婚家に属することになるので、配偶者の父母の家はすなわち自身の家ということになります。婚家の側から相手の実家を意識する仕方にしても、今ほどは相互に行き来があるわけでもなく、呼び方も「里(さと)」と言ったり家名で呼んだりするのが普通だったのではないかと思います。「義実家」という呼称の問題は、家制度が緩んだために生まれたものと言えそうです。
辞書の見出し語にも登場
最近出版された明鏡国語辞典の第3版は、この「義実家」という言葉を見出し語として採録しています。
ぎじっか【義実家】[名]〔新〕夫または妻の実家。▽新しい言い方で、違和感を持つ人も多い。
この説明、いかがでしょうか。〔新〕とあるのは凡例によると「新しく生まれた語や意味」。従来なら「卑俗な語、新しい語」として〔俗〕のマークが付されていた言葉が、3版では〔俗〕と〔新〕とに分けられています。
しかし、〔俗〕と書いてあったなら俗語として使用をためらう人でも、〔新〕であれば新たに認められた語と考えて、使用に背中を押される場合もありそうです。「義実家」の項目は「違和感を持つ人も多い」と注記されています。これは読者に判断を委ねるための情報と受け止めますが、それならばもう少し説明を増やして、なぜ違和感を持つ人も多いのかを説明してくれてもよかったか、と感じます。
新聞では使用を避けたい
回答から見られる解説で書いたことの繰り返しになりますが、「義」と「実」は相いれないものを説明する文字で、これらを同居させた言葉で一つのものを説明しようというのは、だいぶ難しく感じます。「義家」「義理家」のような言葉が必要なのかもしれませんが、いずれも使用する人はほとんどいないようです。
今回のアンケートの結果では、許容するという人も多く見られました。適切な言葉がない場合には、言葉としてこなれていなくても意味が通じれば問題ないとして、「義実家」も使われているのでしょう。「おかしい」と考える人が半数を超えた結果に鑑みても、当面、新聞として容認できる言葉ではありませんが、今後の使われ方が気になるのは確かです。
(2020年12月25日)
今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、年末年始の帰省もままならない人が多いのではないかと思います。もっとも場合によっては、パートナーの実家で気を使うことなく済んだこと、あるいは親族の来訪で慌ただしい日を過ごさずに済んだことに、内心ホッとしている人もあるかもしれません。
さて、いま上で書いた「パートナーの実家」に関する表現が今回の質問です。配偶者の父と母のことを「義父」「義母」と言いますが、その義父母の家のことを何と呼ぶか。一言ですっきりと呼べる名称はなく、「夫の実家」「妻の実家」のような言い方が普通だと思いますが、何とかそれらを総称しようとして生まれたのが「義実家」という呼び方だろうと思われます。
しかし、この言葉は一見しておかしく感じられます。自分の母親を実母と言い、つれ合いの母親を義母と言いますが、この場合「実」と「義」は対立する概念です。それをくっつけて一つのものを表すのはだいぶ難しく感じます。
とはいえネット――特に某知恵袋やY紙系サイトなど――ではしばしば目にする表現でもあり、実は毎日新聞紙面でも見たことがあります。居心地の悪い言葉なのですが、他の語をもって代えがたいのであれば、定着が進む可能性もあります。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2020年12月07日)