「あいさつ」という言葉の表記について伺いました。
目次
書く場合、漢字と仮名が半々に
「こんにちは」など身近な言葉の「あいさつ」。どんな表記の仕方がなじみますか? |
書く場合/読む場合とも「挨拶」 25.1% |
書く場合/読む場合とも「あいさつ」 28.4% |
書く場合は「挨拶」、読む場合はいずれでもよい 26.5% |
書く場合は「あいさつ」、読む場合はいずれでもよい 19.9% |
四つの選択肢に分散する格好になりました。「書く場合」「読む場合」に分けて、漢字と仮名のいずれの表記がなじむかを数え直すと、
・書く場合は「挨拶」51.6%
・書く場合は「あいさつ」48.3%
となります。書く場合にも漢字の方がしっくりくるという人の多さは意外でした。出題者が「挨拶」という漢字の書き方をちゃんと覚えたのは、2010年の常用漢字表改定で、これらの文字が表に入ってからのこと。このサイトを見ている方たちが漢字に慣れていることに感心するとともに、少々恥ずかしく感じもします。
限られた用途でも常用漢字入りした「挨」と「拶」
ところで「挨拶」に使われる二つの漢字は、常用漢字表改定の検討において、途中までは個別の漢字として表に入る予定ではなかったようです。
常用漢字表の改定に当たっては、途中まで「準常用漢字」や「別表」ないし「付表2」を設けることが検討されていました。「準~」は改定で字数が大幅に増える場合を想定して、「情報機器を利用して書くことができればよい漢字」として、また「付表2」は「特定の熟語でしか使わない」が、出現頻度の高い文字を表に入れるとして検討されました。後者の代表例が「挨拶」。この場合「挨」「拶」それぞれの文字は表外字のままでも、熟語の「挨拶」は表内の語となるはずでした。(「国語分科会幹事小委員会における審議について」2008年)
しかし字数増の規模がある程度抑え込まれたことで「準常用漢字」を設ける必要性は小さくなり、「付表2」についても「最終的には<なるべく単純明快な漢字表を作成する>という考え方を優先し、これらについては設定しない」ということになりました(文化審議会答申「常用漢字表」2010年)。確かに「個々の文字は表外字なのに、熟語としては表に入る」ということになっていたら当惑を招いたことでしょう。
仮名書きで不自由はないが…
しかし結果として、出現頻度はそれなりに高いものの、使い道がごく限定的な「挨」「拶」2文字が常用漢字表に入ってしまい、新聞などのメディアは扱いに困っている部分があります。各社とも原則は仮名書きです。漢字表記が意味を明確にするわけでもなく、仮名書きして読みにくいという語でもないため、穏当な判断だと考えます。特に毎日新聞の場合は仮名書きに統一するというルールを定めているので迷うことはないのですが、最近は漢字を許容する社も出てきています。
たとえば共同通信の「記者ハンドブック」(13版)のように、「あいさつ」の項目で注記して「寄稿などで漢字書きの場合、読み仮名は不要」という扱いをしている場合もあります。記者が書く場合は仮名書きだが、外部筆者が漢字表記を用いている場合には常用漢字としてルビ不要とする、ということ。書き手が社内か社外かで二重基準にするというのは、読者には分かりづらい判断かもしれません。
新聞は漢字の使用を進めるべきか
今回のアンケートの結果を見ると、漢字表記がなじむという人は書く場合で半数、読む場合では「いずれでもよい」を含めると7割以上になりました。こちらの想像を超えて漢字表記が浸透しており、メディアも仮名書きを墨守すべきではないのかもしれません。
ただし、先にも挙げた文化審議会の答申では、常用漢字選定の第一の条件として「出現頻度が高く、造語力(熟語の構成能力)も高い」文字を表に入れるとしています。この点で見て、造語力のほとんどない「挨」「拶」が常用漢字になったことには釈然としないところもあります。またこの2字とも共通の「つくり」を持つ文字が常用漢字表内になく、学習者が覚えにくいことも気になるところです。
今回のアンケートの結果も参考にしつつ、「挨拶」の漢字使用を進めるかどうかは、当面は社会の様子を見ながら判断材料を求めていきたいと考えます。
(2020年12月08日)
「挨拶」に含まれる2文字は、いずれも2010年の改定で常用漢字表に入った文字です。表に出てくる「挨」「拶」ともに用例は「挨拶」のみ。読みも音読みの「アイ」「サツ」だけですから、まさに「あいさつ」という語のためだけに表に入ったと言えるでしょう。
毎日新聞では、仮名書きが定着しているという判断から表記を「あいさつ」に統一しています。「挨」「拶」ともに文字としては意味も読み方も分かりづらい。「挨」は「塵埃(じんあい)」の「埃」と部首が共通ですが、こちらもよく使う文字ではありませんし、「拶」は似た字が少なく、この字を覚えるしかありません。
言葉としての「挨拶」は元々、「『挨』も『拶』も押すことで、複数で『押し合う』意から」、「禅宗で、問答によって、門下の僧の悟りの深浅をためすこと」(日本国語大辞典2版)だそうです。現在の「交際を維持するための社交的儀礼」(同)という意味は漢字の意味から遠く、あえて漢字書きにする必要性も薄そうです。
とはいえ常用漢字に入っている以上、漢字書きを否定するのを難しいと思う場合もあります。皆さんはどんな表記がなじむと感じるでしょうか。
(2020年11月19日)