エンジンを「ふかす」という場合の表記について伺いました。
目次
「噴」が4割で最多
車のエンジンをブンブンと「ふかす」。漢字で書くと? |
吹かす 26.4% |
噴かす 40.3% |
蒸かす 8.5% |
かな書きがよい 24.7% |
「噴」が最多の4割を占めました。「吹」と「かな書き」がともに4分の1程度。やはりエンジンというと爆発のイメージがあるために「噴」の字が選ばれることになったのでしょうか。
辞書の大半は「吹」で表記
回答から見られる解説のおさらいになりますが、国語辞典の大半、および新聞・通信社の用語集の過半は「エンジンを吹かす」という書き方を採用しています。現代国語例解辞典(5版)は「燃料を多く吹き込んでエンジンを速く回転させる」と説明しており、この「吹き込んで」というところに「吹」を使う理由を求めているのかもしれません。
エンジンの仕組みは、燃料の混じった混合気をシリンダー内に吸い込む「吸気」▽その気体をピストンで圧縮する「圧縮」▽圧縮された混合気に点火する「爆発」▽燃焼後の気体をシリンダーの外へ出す「排気」――というプロセスの繰り返しです。「ふかす」という営みを気体の移動する過程と捉えれば、さかんにエンジンを回転させることは「吹かす」としてよさそうに思えます。
風を送るのが「吹」、勢いが「噴」
白川静氏の「字統」は「吹」の字について、「説文解字」(古代中国の字書)の二つの部にあるといい「口部には『噓(きょ)するなり』、欠部には『气(き)を出すなり』とあって、意味は同じ」とします。「噓する」は「うそぶく」の意。「口をすぼめて息を強く吐き、また、音を立てる」(日本国語大辞典2版)ということで、やはり息を吐くことです。「吹かす」という文字遣いで意味されるのは、風を送ることと考えてよいでしょう。
「噴」は「賁」に「中より外にあらわれるものの意がある」(字統)とのこと。「噴嚏(ふんてい、くさめ)は中からふき出して止めがたいもので、そのような勢いのものを噴出・噴盈(ふんえい)のようにいう」(同)。くしゃみのように勢いの良いものについて使うのが「噴」ということ。毎日新聞用語集には「エンジンが火を噴く」という例が載っています。ロケットエンジンであれば勢いよく火を噴き出させるのは当然といえますが、自動車のエンジンの場合に「噴かす」といったら何が起きるのか、想像しにくい感じもします。
自動車関係では「吹」が使われる
校閲のツイッターへのコメントでは「エンジン関係だと『吹かす』以外にも『吹け上がり』『吹けが良い』など自動車業界で長く使われてきた強みがある」という声も。毎日新聞の過去記事を見ても、自動車のエンジンについて「吹け上がり」「吹き上がり」を使っているものがありました。エンジンの回転数の上がり方について言う言葉ですが、こうした用字を見るとやはり「吹かす」に分がありそうです。
国語辞典でただ一つ「噴かす」を見出しとした岩波国語辞典(7新版)は「蒸気機関についての『蒸(ふ)かす』の転用か」と言います。蒸気機関は石炭をくべてボイラーをたき、蒸気で動力を得るものですが、この過程で「蒸かす」という言葉を使うかは確かめられず。他の辞書から外れた表記を載せた根拠は分かりませんでした。
アンケートでは「噴」が多いという結果になりましたが、辞書や使用実態を見る限りでは「吹」を使う方が良いと考えられます。ただし、「噴」の支持の多さを考慮すると、漢字を使わずに「ふかす」と平仮名で書くことも有力な選択肢になるのではないかと思います。
(2019年08月13日)
あるコラムの原稿に「エンジンを噴かす」という言い回しが出てきました。毎日新聞用語集には「エンジンが火を噴く」という用例は載っているのですが、「ふかす」は無し。この「ふかす」は車やバイクのエンジンをブンブン回すことで、普通は火を噴かすわけではありません。
手近な辞書を引いた上で、通信社の用語集も参考に「吹かす」としましたが、その後コラムの筆者から問い合わせがありました。どうして「噴かす」は駄目なのか、と。
中辞典(広辞苑、大辞林、大辞泉)ではみな「吹かす」の項目に「自動車などのエンジンを速く回転させる」(広辞苑7版)などとあります。ただし、大辞泉だけは「『噴かす』とも書く」としており、「噴」が駄目とも言い切れないのかも……。
一方、新聞・通信社の用語集は7社中4社のものに「エンジンを吹かす」との記載があり(毎日含む3社は記載なし)、国語辞典もほとんどは「吹かす」。大勢は「吹かす」にありそうです。
ただし岩波国語辞典(7新版)だけは「噴かす」としており、「蒸気機関についての『蒸(ふ)かす』の転用か」と説明も試みています。なんだか話がややこしくなりそうですが、皆さんが違和感なく使えるのはどの表記か。まずは伺ってみることにしました。
(2019年07月25日)