「寄与」をプラスの意味以外でも使うかどうか伺いました。
目次
否定的な意見が大多数
国際情勢が景気の減速に「寄与」している――悪いことにも「寄与」を使う? |
使う。違和感はない 13.2% |
使わないが、違和感はない 9.3% |
使うが、違和感はある 10.8% |
使わない。違和感がある 66.7% |
「使わない、違和感あり」という否定的な意見が3分の2を占めました。「違和感はない」とする意見は2割強にとどまり、良くない方向で「寄与」を使うのは一般的な感覚になじまない用法だと言えそうです。
経済用語としての「寄与」
この「寄与」は日常的に使う語でもあるのですが、経済用語としては日常語から独立するように「寄与度」「寄与率」の形でよく使われます。作間逸雄さんの「SNAがわかる経済統計学」(有斐閣アルマ、2003年)は以下のように説明します。ちなみに「SNA」とは国連が決めている国民経済計算の基準のこと。
GDP全体の動きに占める各需要項目がどの程度の寄与をしたかを知るうえで重要な概念として、寄与度があります。寄与度とは、上位の経済指標(ここではGDP)の上昇・下落に対してその構成項目〔中略〕の上昇(下落)率がどの程度貢献したかを知るためのものです。
例えばGDP(国内総生産)が増加した場合に、消費支出のような個別項目の増減がどの程度その増加に影響を与えたか、ということを「寄与度」という言葉で表現しているということです。確かに内閣府のGDP統計を見ると「寄与度」がぞろぞろ出てきます。
「影響を与えること」として使う
総務省のウェブサイト「なるほど統計学園」の「統計用語辞典」にも「寄与度・寄与率」の項目があり、「各部分の変化の全体への影響のことを寄与という。『寄与度』はあるデータを構成する項目の増減が、全体をどのくらい押し上げたり、押し下げたりしているかを表すもの」と説明します。
上に引いた書籍やGDP統計、あるいは総務省のサイトを見ても分かるのは、「寄与」という言葉に特にプラスの意味を込めていないということです。数値が上がろうと下がろうと、影響を与えることが「寄与」であるということ。上の書籍では「貢献」も同じように使っています。専門用語としては「寄与」にしても「貢献」にしても、特に価値判断を込めることなく使われているようです。
一般には「世のため人のため」になること
しかし、回答からの解説でも示したように、「寄与」についての国語辞典の説明は、主としてプラス面のみを取り上げたものです。「同時代および後代の人の生活向上や、社会・国家の発展のために役立つこと」(新明解国語辞典7版)のように、まさに「世のため人のため」になることが「寄与」だという説明もあるほど。一方で「物事のある変化に影響を与えること」という、経済用語を意識した説明を載せていたのは、見たところ大辞林3版のみでした。こうしたことを参照すると、マイナス方向での「寄与」の使用に4分の3を超す人が違和感を認めたのは自然なことと思えます。
結局のところ、経済の分野で日常語を専門用語に流用する形で「寄与」を使っていることが違和感を生んでいると言えそうです。そして専門用語や業界用語をメディアがそのまま記事に取り込んでしまうことには注意が必要で、「寄与」のような言葉の扱いについても、一般的な意味を外れることについては十分に抑制的でなければならないと考えます。
今回取り上げた例は外国の要人の発言でした。発言には直しを入れにくい場合も多いのですが、これは翻訳されたものでもあり、「寄与」の部分を変えて「景気減速に影響を及ぼしている」などとしても理解できるはず。校閲としてはそうした提案をすることも頭に入れておくべきでしょう。
(2019年07月23日)
米中の通商問題は、大阪での首脳会談を経ていったん緊張が和らぎましたが、何ごとかあれば世界経済に大きな影響が及びます。主要20カ国・地域首脳会議に訪れた要人からは「困難な米中関係が景気減速に寄与している。有害なインパクトだ」という声も漏れました。
景気の問題もさることながら、ここで気になるのは「寄与」という表現。都市対抗野球に出場したチームの社長は、野球部が「社員の士気高揚に大きく寄与している」と言っていましたが、このように「貢献」に近いプラスの意味で使うことが多い言葉です。「有害」な影響についても使えるのかどうか。
国語辞典を見ると「国家や社会に対して役に立つことを行うこと。貢献」(広辞苑7版)とポジティブな意味のみを載せているものがある一方、「物事のある変化に影響を与えること」(大辞林3版)と功罪かまわずに使えるとする説明を載せているものもあります。これはどちらが多数の支持を得るか、皆さんのご意見を伺いたいところです。
(2019年07月04日)