「引火する」という言葉の使い方について伺いました。
目次
8割以上が「~に引火した」を選択
火花が飛んでガソリンに火がついた。「引火した」を使って言うと? |
火花からガソリンが引火した 17% |
火花がガソリンに引火した 83% |
大方の支持を集めたのは「~に引火した」の方でした。辞書の用例でも「火花がガソリンに引火する」というものが出ていますから、多くの人が順当な選択をしたと言えるでしょう。ただし、「引火」という言葉自体の分かりづらさには引っかかるところがあります。
辞書の説明にも揺れ
日本国語大辞典(2版)の「引火」の説明は「近くの火、熱によって物が燃え出すこと。火がつくこと」。「火がつくこと」なら「ガソリンに~」と言っても問題なさそうなので、その点では理解できます。
しかし一方、「引火点」の説明には「物質が引火する時の最低温度。引火温度」とあります。「物質が引火する」というのであれば、やはり使い方としては「ガソリンが引火する」と言うのがよい? どうも辞書の中でも使い方に揺れがあります。
大辞泉(2版)でも「粉塵爆発」の項目では「空気中に浮遊する石炭微粒子〔中略〕などが火花・閃光(せんこう)などによって引火し、爆発すること」と説明するなど、火がつく側を主語にして「引火」を使うケースもあり、使い方に難しい部分がありそうです。
「燃え出す」「発火する」では分かりづらい
回答から見られる解説でも書きましたが、「引火」について物が「燃え出すこと」「発火すること」という説明をする辞書が少なくありません。たとえば「〔燃えやすい物が〕他の火や熱によって燃え出すこと」(新明解国語辞典7版)。また「他の火熱によって可燃性の物質が発火すること」(広辞苑7版)。
しかし、このような説明だと「引火」の主語になるのは「燃えやすい物」の方でなければなりません。選択肢のケースだと「ガソリン」が主語になるべきで、「ガソリンが火花によって引火した」のような形になるはず。「火花」が主語になるなら「燃え移ること」のような説明にしてほしいところです。
さらに、実際の使われ方は「燃えやすい物に、何らかの火種によって、火がつくこと」ぐらいのようです。辞書の説明が実態から外れている面があるのではないかと思われます。この「引火」という語に関しては、「燃え出す」や「発火する」を使わない三省堂国語辞典(7版)の「ほかの火や熱によって火がつくこと」という説明が他よりすぐれて見えます。
辞書以外での用法確認も
今回のアンケートの結果自体は皆さんの傾向がはっきりしており、「~に引火する」という形を使う共通の認識ができていると考えます。ただし、それを説明する国語辞典の記述は不十分で、用法をはっきりさせたい場合には辞書とは別の、たとえば現代日本語書き言葉均衡コーパス「少納言」のようなものを参考にするのがよさそうです。毎日新聞などの記事データベースも、一種のコーパスとして使用できます。
(2019年07月09日)
「引火」は使い方が分かりづらい言葉です。熟語の構成としては「火を引く」と取ることができ、「ガソリンが引火した」が良さそうに見えます。国語辞典の説明を見ると「可燃性のものが、他の火・熱によって燃え出すこと」(岩波国語辞典7新版)とあります。「燃え出す」のだから「ガソリン」が主語で良さそうだ、と思いきや、出ている用例は「ガソリンに引火した」です。あれ?
もう一つ辞書を引くと「他の火や熱が移って燃えだすこと。『火花がガソリンに―する』」(大辞泉2版)。やはり説明には「燃えだす」とあるのですが、用例は「火花」が主語で「ガソリンに引火する」となっています。しかし、それならば説明は「可燃性のものに燃え移ること」のような形を取るべきではないでしょうか。
新語に敏感なだけでなく、実は説明に工夫の多い三省堂国語辞典(7版)は「ほかの火や熱によって火がつくこと」といいます。用例は挙がっていませんが、この説明なら「ガソリンに引火した」でもいけそうです。皆さんはどう使っているでしょうか。
(2019年06月20日)