一緒に食べない方がよいとされている組み合わせを「食い合わせ」というか「食べ合わせ」というか伺いました。
目次
ほぼ半々に割れる
ウナギと梅干し、そばとタニシ……といったら「何」が悪い? |
食い合わせ 53.9% |
食べ合わせ 46.1% |
回答はほぼ真っ二つ。本来の言い方である「食い合わせ」がやや優勢ですが、「食べ合わせ」派も引けを取りません。
「食べる」は普通より丁寧な言い方だった
「食う」を辞書で引くと「人間のばあいは、『食べる』の、ぞんざいな言い方になる」(三省堂国語辞典7版)といった説明が見つかります。やはり「食い合わせ」は荒っぽい印象であるために避けられ、「食べ合わせ」が出てきたのでしょう。
平安時代には女性の書く和文で「食ふ」が、男性の書く漢文の訓読文で「食らふ」が用いられていたそうです。一方で「その平安時代、現代語の『食べる』の先祖に当たる『食(た)ぶ』も用いられていました。その『食ぶ』は、自己卑下的な感じが伴う言葉だったようです」(中村幸弘「日本語“どうして”Q&A100」右文書院)。
確かに広辞苑7版には、「食ぶ」は「タマフ(賜)の転で『(飲食物を)いただく』意」とあります。そして「いまでは、その『食べる』が、丁寧語から平常語に移って用いられて」いるわけです(「Q&A100」)。
語感は「丁寧→普通」「普通→雑」と変化する
新明解国語辞典7版の「食う」の項目では、「女性はあまり使わず、『食べる』意の俗な言い方として男性が好んで用いる向きもある」と解説されています。元々主に女性が用いており、ぞんざいでもなかった「食う」がこのような位置づけになったのは面白いですね。普通の表現だったものが雑に思われるようになり、丁寧な表現だったものが普通の表現になるという大きな流れがあるようです。
高橋巌「平成日本語聞見録」(無明舎出版)には、1990年ごろに「飲み放題食べ放題」という看板を見て「『飲食』は和語では『飲み食べ』でなく『飲み食い』、したがって『飲み放題食い放題』といっていたはずであったが、と思った」とあります。特に店が客に対して使う言葉は、過剰なまでに丁寧なものになりがちですから、「食い放題」が消えていったのもその傾向に沿ったものでしょう。今や「食い放題」の名でメニューを出しているお店は全く見かけません。
いずれは「食べ倒れ」や「金食べ虫」も?
今回のアンケートで「食い合わせ」「食べ合わせ」の勢力が伯仲している結果を見ても、丁寧な言い方をしようとする傾向には慣用的な言葉の結びつきを引きはがす力があるようです。「聞見録」には「道草を食べる」という例、三国には「自動車がすごくエネルギーを食べる」という例が載っていました。これらには違和感が強いという方が多いでしょうが、こうした用例まで出てきているとすると、今後「食う」が「食べる」に化ける場面はさらに増えるかもしれません。
(2019年07月05日)
自分の読んだ原稿を先輩に再チェックしてもらっていたとき、「最近は『食い合わせ』のことを丁寧に『食べ合わせ』って言うの?」と聞かれてしまいました。
「食べ合わせ」を載せている辞書は多いのですが、ほとんどが「食い合わせ」を参照するよう促しているだけ。食い合わせは「一緒に食べると有害であると考えられている食べ物の組み合わせ」(大辞林3版)。
2008年の広辞苑6版には「たべあわせ」は載っておらず、18年の7版で見出し語として追加されました(これも「くいあわせ」を参照せよ、と書かれているだけですが)。出題者は違和感なく読んでしまいましたが、「食べ合わせ」は新しい言い方で、本来は「食い合わせ」のようです。
しかし毎日新聞の記事を検索すると、21世紀に入って「食い合わせ」を使っていた記事はわずか6件。対して「食べ合わせ」「食べあわせ」は34件。本のタイトルを書いている場合もありますが、5倍以上の使用例があります。
先輩の言うように記者が「丁寧に」書こうとして、やや荒っぽい印象の「食う」を避けているのかもしれませんが、もはや「食べ合わせ」が主流です。アンケートでも「食べ合わせ」派が多数を占めるでしょうか。
(2019年06月17日)