政治の場面でしばしば使われる「ハレーション」という言葉を知っているか伺いました。
目次
半数近くが「分からない」
政治家の発言「参院選を前に、規制強化でハレーションを広げたくない」。「ハレーション」の意味は分かりますか? |
意味を知っている 28.6% |
知らないが文脈から分かる 25.7% |
分からない 45.7% |
知っているという方は約3割、文脈から分かるという方を含めても半数程度にとどまりました。半数近くが「分からない」を選んだ点に気をつける必要がありそうです。
比喩的用法、辞書採録はわずか
新明解国語辞典7版の説明を引くと「〔写真で〕フィルムに入射した光が、乳剤層を通り抜け底面で反射し、不要な感光を与える現象」。「不要な」という説明から分かるように、基本的にはハレーションを起こすと失敗写真になってしまいます。強い光によって周囲がぼやけてしまうこの現象が「派生して他に影響を及ぼすこと。主に、悪い影響についていう。副作用」(大辞泉2版)という意味になるわけです。インパクトのある言動によって周囲にあつれきを生むことの上手な比喩だとは思います。しかし一般的な認知度はどうでしょう。
インターネットのビジネス用語解説サイトではいくつか見つかりました。政治家の発言に限らず、ビジネスの世界でよく使われているのですね。しかし書籍に関しては、図書館にあったカタカナ語辞典のどれにも写真用語の記述しかなく、「悪影響」「副作用」といった説明は見つかりませんでした。結局この意味が載っているのを確認できたのは、大辞泉2版(2012年)と三省堂国語辞典7版(14年)のみ。それぞれの一つ前の版、大辞泉の初版(1995年)と三国の6版(08年)にはいずれも載っていません。
フィルムは消えても「ハレーション」は残る?
毎日新聞の記事(東京本社版)を検索してみると、ヒットしたのは31件。昔は写真用語としての使用が多かったのですが、ここ10年では派生した意味での使用の方が多くなっています。首相の靖国神社参拝について「ハレーションは小さくなかった」と書いたり、市役所改革を進めた市長が「ハレーションは大きかったですね」と話していたり。
最近も、自民党幹事長が東京都知事の再選に協力すると発言したことについて、党内から「ハレーションが起きるだろう」という声が出ているとの報道を目にしました。使用は拡大しているのではと思われます。
しかしこの写真の「ハレーション」、フィルムを使ったカメラで起こる現象です。デジタルカメラが主流になった現在になって、派生した意味を認める辞書が出てきているというのは不思議な感じもします。写真撮影が趣味の家族に聞いてみたところ、あえてハレーションを起こしてぼやけた写真にするテクニックもあるのだとか。柔らかく幻想的な印象を出すことができるようです。
現状では言い換えが無難
ともかくアンケートと辞典類の記載状況からは、説明無しに「ハレーションが起きる」などと書くのは避けた方がよいでしょう。読者を戸惑わせ、それこそ記事の意図がぼやけてしまうこともありそうです。今後この用法が広く浸透するかどうかは分かりませんが、今のところは別の言葉に言い換えるのが無難と言えます。
(2019年05月17日)
著作権法を改正して、違法ダウンロードの対象を漫画などに広げる案が見送られたことについての発言が毎日新聞に載りました。
確かにしばしば政治家が「ハレーションが……」というのを聞きますが、あまりなじみのない言葉ではないでしょうか。多くの辞書では「(写真用語)強い光の当たった部分の周りが白くぼやける現象」(広辞苑7版)といった説明のみ載せていました。この説明では今回のアンケートの例文を読み解けません。
大辞泉2版では、その写真用語が転じて「派生して他に影響を及ぼすこと。主に、悪い影響についていう。副作用」とありました。「所管大臣の発言が地元で―を起こす」という例文があり、これこそ今回のものに当てはまる意味。職場の辞書を見たところ、この説明を載せていたものは他に「つごうの悪い反応」とした三省堂国語辞典(7版)だけでした。
これでは読者が「?」と思って辞書を引いても意味が分からない、という場合がありそうです。それなりに知られている言葉なのでしょうか。それとも「悪影響」などと言葉を補った方がいいのでしょうか。
(2019年04月29日)