令和時代がやって来た。平成の新元号が発表された1989年1月7日。当時大学生だった私は「文字通り平たい感じがするな」と少し違和感を持ったことを覚えている。だが、そんな違和感はすぐに忘れ、あっという間に30年が過ぎた。今回は、「れいわって、高い金属音のような響きだな」と別の感想を持った。
ラジオ、リビング、ロボット……。ら行で始まる単語には外来語が多いような印象がある。元号に使うのは新鮮な感じがする一方、昭和で使った和をまた使うのもなんだかなとも思った。
そんな平成最後の冬から春にかけて、ちょっとしたことにこだわった。我が家で一年中愛飲しているネスカフェのボトルコーヒー。冬バージョンのラベルに「レンチンでホットでも」と書かれていた。商品名ではないが、話し言葉の省略語がすでに市民権を得ているのかと最初はびっくりした。「冷蔵庫の中の肉まんをチンして食べてね」。子ども時代、そんな母親のメモをよく見た。当時から「チン」は一般的だが、「レンチン」とはだれも言わなかった気がする。
毎日新聞のデータベースを検索すると、2016年ごろから料理関係の記事で「レンチン」が出始めている。読売新聞オンラインの発言小町だと、11年5月に「『レンチン』って何なんだ(駄)」という話題が出ていた。投稿した男性読者は「全身鳥肌が立ちました」と批判的だ。「言葉で遊ぶのも知性のうち」「略語は便利」という肯定的な意見がある一方、男性に賛同する声も多かった。どちらが正しいということではないが、こういう略語は「オノマトペ」の一種のようでとても興味深い。
「オノマトペ」とは擬音語、擬態語の総称でほかの外国語に比べて、日本語では特に多いと言われている。「トントン」「ワンワン」から「ギラギラ」「ウジウジ」…。いくらでもある。「擬音語・擬態語辞典」(山口仲美編・講談社)などによると、欧米ではオノマトペは子どもが主に使う言葉だが、日本では平気で大人が使うのだそうだ。
日本最古の文献「古事記」(712年成立)では、イザナギ、イザナミが日本列島をこしらえるために矛で海水をかき回す音を「こをろこをろ」と表現している。令和の出典「万葉集」にも鼻水をすする音「びしびし」が載っている。「レンチン」ぐらいで驚いたり、腹を立てたりしても仕方ないのかもしれない。
それより、「レンチン」の面白さは、単なるオノマトペではなく略語が合わさっているところにあると言いたい。「もふもふ」「ツンデレ」「まったり」「ポチ」。平成時代に「新語」として生まれたものはたくさんあるが、「レンチン」のように略語+オノマトペのパターンで有名なのは「壁ドン」ではないか。14年のユーキャン新語・流行語大賞トップテンに入るなど、社会現象(?)にもなった。発端となった映画「L♡DK」以外にも女子向けのマンガやドラマでおなじみだ。
ただ、この二つは、すでに古いと感じる向きもある。職場の若手数人に聞いたところ、「なぜレンチンというのか分からない」という意見があった。最近、電子レンジで「チン」と鳴るものが少なくなったのが原因らしい。壁ドン自体、「イケメン以外はやっちゃだめ」との女子からのシビアな意見もある。私がそうだったように、若者もいつまでも若くはなく、すぐに世代交代する。
日本語も古事記、万葉集の時代から現代まで、次々に新語が出ては消えを繰り返している。令和時代にはどんな新しい言葉が出てくるのか。そう考えると楽しみだ。
【内田達也】