3月21日に開催されたイベント「国語辞典ナイト」25回目のリポート㊦です。ゲストの「ラランド」ニシダさんの「ニシダ語」は国語辞典に載るのか……? 恒例の国語辞典を使ったゲーム「大人のズッキーニ」も楽しみました。

3月21日にイベント「国語辞典ナイト」25回目が開催されました。盛りだくさんの今回は各レギュラーメンバーのプレゼンに続いてゲストのお笑いコンビ「ラランド」ニシダさんにまつわる「辞書」をつくろうという試みも。恒例の国語辞典を使ったゲームは「大人のズッキーニ」?
【平山泉】
「国語辞典ナイト」とは
2014年11月から不定期に開かれている国語辞典を楽しむイベント。国語辞典を引き比べたり、まじめに語ったりする一方、時に厳しく突っ込みを入れるわ、からかうわ……そして毎回、会場に辞書愛をあふれ返らせて終わる。辞書を使って遊ぶ多彩なゲームも魅力。
レギュラーメンバーは三省堂国語辞典(三国)編集委員の飯間浩明さん、ライターの西村まさゆきさん、「辞書ソムリエ」で校閲者の見坊行徳さん、「辞書コレクター」で校閲者の稲川智樹さんの4人。
18年の第7回には毎日新聞校閲センターの平山泉がゲストで登壇した。
休憩を終えて、後半は「ニシダ辞書をつくろう」から。メンバーたちがニシダさんの動画チャンネルから「用例採集」をしようというのです。
まずは西村まさゆきさん。西村さんが注目したのは

2週間ほど前の動画だそうで、とにかく「質問に即、答える」というもの。
「一気に気分が上がるきっかけになるものは何ですか?」に対して「やっぱり美しい風景を見た時かな」と答えており、「即答になると、なんか良い人みたいなっちゃうっていうんで、面白かった」(西村さん)。
そして、こうしたやりとりの中で西村さんが気になったのが「丁寧な暮らし」。国語辞典で見ていきます。
「丁寧」を調べると「軍陣で用いた銅鑼(どら)の意」などと出てきて「あっそうなんだってなりました」(西村さん)。
こんな発見があるところも辞書を引く面白さ。
そういえば、円満字二郎さんの著書「政治家はなぜ『粛々』を好むのか」(新潮選書)にも「丁寧」が“漢字の擬態語”として取り上げられていたことを思い出しました。
改めてこの本を開くと、古代の中国語では「ting-ning」という発音だったことが推測されることや「鐘を鳴らして知らせる」という意味から「くり返し伝える」意味に広がっていたのだろうということなどが書かれていました。中国の古典の中での使われ方も紹介されており、「丁寧」面白い!
さて、三国の語釈は「①細かいところまで気をつけるようす」「②細かいところまで気をつけて、心をこめるようす」「③こわしたりしないように注意するようす」「④〔ご―〕度をすぎて念入りなことを、いやみをこめて言う」。「丁寧な暮らし」の「丁寧」は③が近いような、でもぴったりとは感じられません。
他の辞書も見て「隅ずみまで注意が行き届き、落ち度の無いことを期待する様子だ」(新明解国語辞典)、「礼儀正しく、こまやかに心配りをすること」(旺文社国語辞典)、「仕事のやりかたが雑でなく、念入りなこと」(岩波国語辞典)――とたどっていき、新明解の「隅ずみまで注意が行き届き、落ち度の無いことを期待する様子だ」で「これがちょっと近いかな」になりました。
話は「意味」だけでなく、「使い方」のほうにも向かうのが、さすが辞書ガチ勢。
「わざと手間をかけた家事を開き直る言い方として使われることがあるみたいなのを入れるとか」と西村さん。
ああ、ちょっとからかうニュアンスもありそうですね。
「わざわざ朝からコーヒーを豆ひいてからいれるとか。なんか暇ですねの婉曲(えんきょく)表現のときもある」(ニシダさん)。なるほど。
とすると……三国に載っていた「④〔ご―〕度をすぎて念入りなことを、いやみをこめて言う」が近いのではないかとニシダさんが指摘しました。
「ただ、丁寧な暮らしをしている人間同士では、丁寧な暮らしって褒め言葉なんですけど、部外者が言うと途端に悪口になる」とニシダさんが言い、飯間浩明さんも「意識高い系っていう感じ」と応じます。
三国の④が最も近いと結論づけましたが、「丁寧な暮らし」は最近の言い方だったのか……という感想も。
「おしゃれな雑誌で『丁寧な暮らしを』みたいに取り上げられるようになった」(ニシダさん)ものの、「辞書が家に1000冊あったら丁寧な暮らしはできないですから」(稲川智樹さん)なんていうつぶやきも聞こえました。
お次は飯間さん。
ラランドの動画「相撲に勝って大喜利に答えろ」

から用例採集をしたそうです。
なんでも、この動画はニシダさんと対戦者とが相撲を取り、勝った方が「面白3文字」などを言うことができるというもの。
YouTube作家のライプさんとの第1戦は楽勝し、「ぞんぺ」の3文字を言うことに成功。

後ろに転がっているのがライプさん、らしい
飯間さんは日本国語大辞典まで調べて「辞書にない」ことを確認。
飯間さん 一応私は基本的に知らない言葉は全部メモするんです。
ニシダさん 「ぞんぺ」も? 語感が面白いだけなんですよ。
飯間さん いったん口から出た言葉っていうのは、もう存在しているわけです。
ニシダさん おれが「ぞんぺ」を存在させてしまったんだ。
西村さん ないのはすごいですね。
飯間さん 既存の辞書にないってことは新語ですから。(動画を視聴した)何万人の人が聞いているわけですから。世の中に流通しちゃいましたよね。あとは意味と用法が加われば、辞書に載るかもしれないですよね。
こんな調子でニシダさんが作家やマネジャー、芸人と対戦しては、勝って
「ぽりす」(警察のポリスなどがある)
「きしめ」(アサリを意味する「きしめ貝」という語が日国にある)
「もんぽ」(辞書に見つからない)
「ぽろ」(スポーツのポロなどがある)
「ほ」(1文字ならいくらでもある)
「ろんぽ」(論歩という難しい語がある)
「ちんし」(沈思がある)
「みんし」(明史がある)
――と次々「面白い文字」を繰り出しました(ニシダさん、相撲強いな)が、辞書に見つからなかったのは「ぞんぺ」「もんぽ」で、飯間さんはこの二つを「ニシダ語」と認定しました。
「じゃあ、やっぱり新語を作るって難しいな」(ニシダさん)と実感したようですが、更に意味がついて辞書に載るというのは、かなりハードルが高いわけです。
次は稲川さんです。

偏見ジェスチャーゲーム? 偏見でお題を伝えるとは、どういうことでしょう。稲川さんは「これ見たときに、辞書だなと思ったんですよ。辞書と偏見って実はすごく相性がいいなと思ってまして」。辞書と偏見が?
例えば、三省堂国語辞典の「桜」の語釈には「春にうすくれないや白色の花を一面に美しくひらき、散りぎわがいさぎよい」というくだりがあり、偏見も入っていそうだというのです。ニシダさんも「見る人の感想っちゃあ感想ですもんね」。
また、

ニシダさんが「アホのピーが食うちっちぇえやつ」と「マカロン」について言っていますが、「辞書になるじゃん」と稲川さん。ただし、「ピー」部分は辞書には書けそうにありません。
「シーシャバー」については「アホしかいない変に暑い場所。二次会がそこだったら最悪」とニシダさんが言い、語釈が完成。

と、ここで、稲川さんが「変に」に注目します。どうやらニシダさんの口癖のようです。
辞書を見ると大体同じで「普通と違うさま。妙に。不思議に」。ニシダさんの言う「変に暑い場所」といった「変に」には当てはまらないのではないか、辞書のほうが悪いのではないか――と稲川さんは考えるわけです。
へん‐に【変に】(副)それまでの経験・なりゆきから、ふさわしくないと予想されるようす。「彼の指摘は―鋭かった」「仲がよくない人と―偏見ジェスチャーゲームをやると、喧嘩になる」
これにはニシダさんも「これが一番自分の感覚と近い」と太鼓判を押しました。
そこへ、飯間さんから「仮に」や「もし」というような意味で使うこともあるのではという意見があり、「別義にした方がいい。①妙に、不思議に、②仮に」と稲川さん。ふむ……なかなか一筋縄ではいきません。
「話題を変えるとき、『まあ変な話』っていうでしょ。あの感覚とちょっと似てるかな」(飯間さん)。なるほど。ニシダさんも「自分の中で違和感があることを言う時とかに、無意味につけてしまっている」。そこで、稲川さんは「違和感が感じられる様子ぐらいでもいいかも」。
この「変に」という短い言葉の語釈一つで大いに盛り上がりました。
最後に見坊行徳さん。
見坊さんもニシダさんの動画から、ある言葉に注目します。

「病院を飛ぶ」とは。
ニシダさんは「あんま言わないか」ときょとんとしていますが、見坊さんは初めて聞いたそうです。聞きなじみないですねえ。
見坊さんは、とりあえずこのように語釈を書いてみました。
語釈(仮)
病院を飛ぶ[句]〔行かなければならないのに〕病院に、行かずに済ませる。病院をばっくれる。病院をすっぽかす。
また、「バイトを飛ぶ」はあると考え、電子書籍の検索サイトで本文検索をしたところ、ここ2年くらいの本に例が見つかったそうです。それでも「病院」のほうは見つからない。今度はヤフーリアルタイム検索で探すと、「病院を飛ぶ」が結構見つかったとのこと。更に、グーグルトレンドでは「バイト」も「仕事」も「病院」も飛んでいた。電子書籍で見つからなかったものが、グーグルではたくさん見つかったりするわけです。
そこで、現行の辞書にどう書いてあるか……引こうとしても、そもそも「品詞が合わない」(見坊さん)。「飛ぶ」という自動詞に「○○を」という目的語はとりません。そもそも辞書に「病院を飛ぶ」は入る余地がなかったのです。
見坊さんは意味の上で近い語釈がないか辞書で探していきます。「逃亡する」「行方をくらます」「〔犯罪者などが〕遠くへにげる」……。
「高飛び」とはいいますが、「犯罪者」でなくても病院を「飛ぶ」わけで。
見坊さんは他動詞としての語釈を「すべきことをやらずに逃れる。ばっくれる。すっぽかす」くらいにしてバイトと病院を飛ぶといった用例を入れて――と国語辞典に提言しました。
飯間さんは「『病院を飛ぶ』という言い方は昔はなかったが、どこへと言わずに例えば『マネジャーが飛びました』という言い方があります」と解説しました。「どこかへ行ってしまった」という意味で、場所を言いたいわけでなく「飛んだ」と言い、更に場所でない「を」を使って「番組を飛ぶ」と言うようになったというのです。
こうして、ニシダ語を拾うことで「用例採集のために辞書編集者各位はニシダさんの動画を見なきゃいけない」(見坊さん)ことが判明し、飯間さんも「これから見ます」と応じていました。
皆さんの「ニシダ辞書をつくろう」のプレゼンを終え、最後に恒例の辞書を使ったゲームです。ニシダさんがバラエティー番組「辞書で呑む」で「ニシダクイズ」として出題しており、国語辞典ナイトファンなら「ズッキーニ」としておなじみです。辞書の語釈だけ読み上げて何の語の語釈だったか参加者が解答するというものですが、ご存じない方は、見坊さん、稲川さんの「辞書部屋チャンネル」を参照してください。
今回は「大人の」ズッキーニということになりました。メンバーが一つずつ出題の語を持ち寄りました。その中から、「大人の」でもない無難な一つだけ紹介します。出題者の西村さんとしては簡単だと思ったそうですが、意外と難しかったようですよ。

後で解答を書くので考えてみてください。
全員の出題が終わり、ゲームコーナーも終了。
かなり盛りだくさんな内容でしたが、あっという間でした。「大人な言葉」を取り上げる「攻めた」内容ということで警戒しましたが、適当にはしょっていけば、リポートも無難に書けました(かな?)。ニシダさんの“辞書芸人”っぷりが随所に発揮され、国語辞典ナイツも来場者も盛り上がりました。
ニシダさん、ありがとうございました。今後の「辞書で呑む」などでの活躍を楽しみにしています!
(おわり)
クイズの解答 「子女」
「息子と娘」で子供全般を指して「帰国子女」などと使いますが、「女」がついているので女の子のみを指していうこともあるわけですね。
ニシダさんはいわゆる帰国子女だったのですが、帰国して教室に初めて来る際に「男子が沸いてるんですよね。女の子が来ると思っていたから」と話していました。
