
節足動物の「あし」をどう書くか。「足」「脚」「あし」の3択でお聞きしました。
目次
「脚」が大半だが「足」も「あし」も
| 昆虫やクモなど節足動物の「あし」はどう書く? |
| 足 19.9% |
| 脚 63.6% |
| あし 16.6% |
結果は「脚」が3分の2近くで、残りは「足」「あし」が半々でした。なお、質問の際の言葉としては「節足動物」でしたが、画像は節足動物の中でもカニの絵だったので「カニのあし」を思い浮かべて回答した方が多かったかもしれません。
文化庁の報告では「動物の胴から下」は「脚」
今回調べたいと思った直接のきっかけは、ハチに刺されるのを防ぐにはという内容の原稿で、ハチの「足」が使われていたことです。どちらかといえば「脚」だよねと思いつつ、しかし「節足動物」という分類では「足」が使われているなあ、じゃあ「あし」なら何の問題もないか――と平仮名にしたのです。

過去の記事を見ても統一されておらず、判断が揺れていることがうかがえます。
毎日新聞用語集にはかつて「脚」の用例の一つとして「脚長バチ」が挙げられていました。これは日本新聞協会の使い分け例に準じたものですが、今はなくなっています。動物は「アシナガバチ」など片仮名で書くことが多いから不要と判断されたのでしょう。
一方で現行の日本新聞協会の「新聞用語集」では「脚長蜂」が載っており、「ハチのあし」を漢字で書くなら「脚」になるのだろうと類推できます。
また、文化庁の「『異字同訓』の漢字の使い分け例」報告(2014年)にはこうあります。
【脚】動物の胴から下に伸びた部分。また,それに見立てたもの。 キリンの長い脚。
昆虫など節足動物の例示こそありませんが、「動物」とあるからには「脚」が適当だろうと判断できます。
辞書では「足」が圧倒的
しかし、国語辞典の記述を見るとそうとは限りません。
国語辞典16種で「節足動物」「昆虫」「蜘蛛(くも)」「蟹(かに)」の語釈に出てくる「足」「脚」「あし」「肢」の使用状況を調べました。「歩脚」など「きゃく」と読むものは外しています。
45の使用文字のうち「足」35(78%)、「脚」7(16%)、「あし」2(4%)、「肢」1(2%)。「足」が圧倒的です。
例えば小学館の新選国語辞典(10版、2022年)では節足動物の語釈中「足」、昆虫は「足」、くもは「足」、かにも「足」と書いてあります。
同じ小学館の現代国語例解辞典(5版、16年)では、昆虫「脚」、くも「脚」、かに「脚」となっていますが、「脚」で統一されているのは珍しいといえます。
調べた国語辞典のうち3種は小学生対象で、「脚」は中学校で習う字なので「足」にした可能性があります。しかし一般向けの辞書でも「足」が多いのはどういうことでしょう。
一つ考えられるのは、戦後まもなく定められた当用漢字表では「脚」の読みとして「あし」が掲げられていなかったということです。
1948年の当用漢字音訓表では「脚」の読みとしては「キャク」の音だけでした。73年に「あし」の訓が追加されたのです。これは現行の常用漢字表にも踏襲されています。
おそらく国語辞典の担当者としては、「脚=あし」が使えるようになったとはいえ、いったん「足」で書いた文字を替えるほどの論拠はないと判断したのではないでしょうか。
中学教科書では「あし」で統一
教科書ではどうでしょう。小学校では漢字の「脚」は習わないので、中学生と高校生の教科書を見てみました。全体を読んだわけではないのですが、中学校では「あし」でほぼ統一されているようです。高校の生物では「脚」「肢」「あし」に分かれ、「足」は見つかりませんでした。
そもそも「足」と「脚」はどう違うのでしょう。
円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」によると、「足」は主に「くるぶしから先」、「脚」は「股下からくるぶしまで」と使い分けるとあります。これは人間のあしのイメージですが――
ここから、《足》は短く、《脚》は長いというイメージが生まれる。同じ動物でも、カメには《足》が、キリンには《脚》が似合う。
と、動物でも「足」があり得ることを示しています。
では円満字さんの著書「漢字の動物苑」「漢字の水族苑」(岩波書店)の用例を見てみましょう。同じ著者なので、その通りに使い分けられているはずですよね?
文脈により「足」も
まず近著の「水族苑」から「カニのはさみが大好物!」の項を開きます。「節でつながった長い脚」とあります。まさに「長いというイメージ」にぴったり即しています。
「動物苑」の「アメンボとミズスマシの混乱」の項には「アメンボは、六本の足を踏ん張って」。あれっ、アメンボのあしは長いイメージがあるのですが「脚」じゃないの?と思ってしまったのですが、その後に「細長い胴体を水面から離して立っています」と続きます。

つまり、円満字さんが注目しているのはあし全体というより、水面にほぼ接するあしの先なのですね。だからあしの先を指す「足」のイメージ通りなのです。
このように、同じ動物のあしでも文脈によっては「足」もあり得るのかもしれません。迷ったときは「あし」という平仮名にする選択肢も、もちろん「あり」です。
いや、単に「迷ったとき」というのも悪くはないのですが、広辞苑や一部の高校教科書が使う専門的な「肢」が、常用漢字表の読みとしては認められていないので「あし」と仮名書きにするというのも立派な理屈になります。そして、中学の教科書で「あし」になっているからというのも積極的な論拠です。
アメンボといえば、ちょっと宣伝ですが毎日新聞出版から「まるやま昆虫研究所」(丸山宗利著)が3冊同時発売されました! 毎日小学生新聞連載をまとめたものですが、連載時のイトアメンボの回で「体(からだ)も脚(あし)も糸(いと)のように細(ほそ)くできています」とあったのが、本では「脚」が「あし」になっていました。
毎週の連載ではどうしても表記が不統一になるところ、本にする際に直したと思われます。児童書なので「脚」は使わないという意思統一がどこかで働いたのかもしれません。

なお、児童書とはいえ大人が読んでも楽しいですよ。文章ももちろんためになるのですが、じゅえき太郎さんの4コマ漫画がゆるくて最高です。虫のリアルな写真が苦手な人でも、これなら楽しめること請け合いです。ちょっとどころか露骨に宣伝になってしまいました。
(2026年06月15日)
節足動物とはアリやハチなどの昆虫のほか、クモ、カニなどを含みます。クモが昆虫と明らかに誓うところは「あし」の数ですね、昆虫は6本、クモは8本。さて、この「あし」は漢字では「足」? 「脚」?
「足」と「脚」の使い分けは、毎日新聞用語集によると意味としては「足」は〔一般用語。手の対語、主として足首から先の部分〕、「脚」は〔主として太ももから下の部分、物を支える部分〕。詳しく用例が挙げられている中に「後ろ脚」があります。四つあしの動物にはもっぱら「脚」なのだろうと判断できますが、昆虫などその他の動物については該当例がなく、よく分かりません。
訓読みの漢字の使い分けに困る場合、対応する音読み熟語に合わせるという対処法が考えられます。「節足動物」に「足」が使われているので「足」というのは一つの考え方です。一方で、節足動物の中の多足類を分類すると、ムカデ類は唇脚綱、ヤスデ類は倍脚綱というそうです。昆虫を「六脚類」という場合もあり、専門用語でも「足」と「脚」がもつれているようです。
迷うくらいならいっそ平仮名の「あし」でいいのではという気もしてきます。皆さんはいかがでしょう。
(2026年06月01日)
