「学べるゲラ」とは
実際の新聞原稿を元に、校閲記者が見つけた(見逃した)間違いやありがちなミスを盛り込んだゲラ(校正刷り)を作成しました。読んで誤字脱字・事実関係の誤りなどを探してみてください。
校閲記者が読んだ後の「校閲後」のゲラと解説(有料会員限定)も掲載していますので、自分の入れた直しと見比べられます。
「校閲は先輩のゲラを見るのが一番の勉強」といわれます。ゲラからは、校閲記者がどのように読み、考え、調べ、直しを入れて疑問を出すかが読み取れます。専門の校閲・校正者以外の方が「校閲後」のゲラと解説を読むだけでも、間違えやすいポイントやミスの潰し方などの参考になります。
👉学べるゲラ第107回・校閲前(PDF)
※こちらから別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
調べるまでもなく当たり前……と思うことでも、実はそうではない場合が。知識として覚えておくのもよいですが、読み飛ばさず丁寧に事実関係を調べることでもミスは防げます。
👉学べるゲラ第107回・校閲後(PDF)
※こちらからPDFを別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
直しの難易度の目安
<誤字脱字・誤用など>
【★☆☆】丁寧に読めば指摘できる
【★★☆】基本的な校閲の知識で指摘できる
【★★★】言葉に関する専門的な知識や経験が必要
<文脈理解>
【★☆☆】普通に読めば指摘できる
【★★☆】注意深く読む必要がある
【★★★】原稿全体の理解や背景知識が必要
<事実確認>
【★☆☆】常識的な知識で指摘できる
【★★☆】調べれば比較的簡単に指摘できる
【★★★】綿密な調査が必要
日本で3町村だけ……
【★★★】(第3段落)十島村にある村役場で→鹿児島市にある村役場で?
自治体の役場はその自治体の行政区域内にあって当たり前……と考えてしまいますが、わずかながらイレギュラーなケースもあります。鹿児島県十島村はその一つで、十島村の役場の所在地は鹿児島港の近くの鹿児島市泉町です。この村役場の庁舎案内のページには「役場本庁舎が行政区域内に無い町村が日本では3つあります。その一つが十島村です」と書かれています。
十島村ができた当初は村の区域内の中之島に役場がありましたが、十島村の発展計画(案)=PDFの資料(2ページ)や全国町村会の説明によると、島々の生活や経済・産業は本土との関わりが増していったことから行財政の効率を良くするため、1956年4月に役場庁舎を鹿児島市に移転した、とのことでした。
ちなみに、鹿児島県では三島村も十島村と同じく鹿児島市に村役場があります。村外にある理由も同様で、三島村役場のサイトにある案内によれば「交通通信の利便性や村の立地条件、経済、文化などあらゆる面から行政が円滑に行われるよう、現在は役場を鹿児島市に置いている」とのことでした。
そして残る一つの自治体は、沖縄県竹富町。竹富町の町役場は石垣島(石垣市)にあります。こちらも竹富町の資料(PDF)(1ページ)によれば前身の竹富村の頃に「離島行政を円滑にすること」を理由に石垣島に庁舎を移転し現在に至るそうです。
更新される情報に注意
【★★☆】(第1段落)震源の深さは約20㌔。地震の規模はマグニチュード(M)5・3と推定される→震源の深さは約19㌔。地震の規模はマグニチュード(M)5・4と推定される?
Yahoo! JAPANの「天気・災害トップ > 地震情報 > 地震の履歴一覧」や気象庁の「地震情報」のページから、震源の深さ約20㌔、M5・3の数字もそれぞれ確認ができます(気象庁のページは地震の発生から1カ月を過ぎてしまっているため、現在は表示されません。スクリーンショットを添付します)。Yahoo!や以下の画像を見る限り、この数字自体は間違いではなさそうです。
ただ、気をつけたいのがこれは速報段階での数値であるという点です。画像の左上にもあるように、発生5分後の午前6時34分に発表されたデータです。
今回は強い地震だったということもあり、気象庁のサイトには発生当日に「令和7年7月5日06時29分頃のトカラ列島近海の地震について」というページができました。ここの本文を見ると、マグニチュードと発生場所について数値の更新があったと書かれています。
マグニチュードは5・4、震源の深さは19㌔が最新の数値となりました。ちなみに2016年4月16日に起きた熊本地震の「本震」では4日後に最大震度が6強から7へと修正されたこともあるため、原稿を読む際はその時点での最新の数値であるかに注意しましょう。
その他の直し箇所
【★★☆】十島村の宝島などで震度3→十島村の小宝島などで震度3?
先のYahoo! JAPANの「地震の履歴一覧」や気象庁の「地震情報」の地図から各島の震度も確認することが可能。気象庁の方では地図を拡大すると、以下のように宝島は震度1を示す白色で、震度3を示す青色だったのは小宝島でした。
【★★☆】小宝島は悪石島の南東約40㌔→小宝島は悪石島の南西約40㌔?
地図で位置関係をしっかり確認しましょう。
【★☆☆】深度1以上→震度1以上
【★☆☆】……相当なものだろう」険しい表情で語った→相当なものだろう」と険しい表情で語った
ちょうど行の変わり目ですが、しっかりと「と」を補いましょう。
似た字がたくさん 人名の「リョウ」
【★★☆】海老田稜貴・地震津波監視課長→海老田綾貴・地震津波監視課長?
「稜」「綾」「陵」「凌」「崚」の字はよく取り違えられます。
【★☆☆】蝦田課長→海老田課長
「預言」は神から預かった言葉
【★★☆】預言(3カ所)→予言
事の発端はある漫画で、漫画家本人の予知夢の体験などが描写されており、作品の中では「大災難の夢を見ました。日本列島の南に位置する太平洋の水が盛り上がる」などと描かれていたことなどに由来します。つまり、「地震が起こる」という言葉は神から啓示を受けて預けられた「預言」ではなく、漫画家本人が夢から未来の出来事を推測したものであるため「予言」が適切です。
【★★☆】5日昼の震度5強の地震→5日朝の震度5強の地震
原稿の書き出しにははっきりと「午前6時29分ごろ」とあります。その都度原稿を読み返すことを忘れずに。
質問受け付けます
「ここに赤字が入っていないが直さなくていいのか」「解答例の直しは不要ではないか」など質問がありましたら、お問い合わせページからタイトルを「学べるゲラ第107回質問」としてお寄せください。質問が多かった箇所やなるほどと思った指摘を中心に、このページで回答いたします。全ての質問に回答できるわけではありませんのでご了承ください。