「スタートアップ」という言葉について伺いました。
目次
分からない人は2割だが…
「スタートアップ」を育成する――カギカッコの中、意味は分かりますか? |
十分理解できる 21.3% |
なんとなく分かる。説明は不要 14.9% |
なんとなく分かるが説明がほしい 44% |
分からない 19.8% |
「スタートアップ」という言葉について意味が分かるか聞いた結果は「分かる」「なんとなく分かる」とした人が計8割を占めました。しかし、その中でも「説明がほしい」とした人の方が多数派で、今一つ不安の残る言葉のようです。
単に新しい企業ではない
アンケートの大まかな結果は「分かる」が2割、「なんとなく分かる」が6割、「分からない」が2割でした。「なんとなく分かる」が多いのは、「スタート」も「アップ」もカタカナ語とはいえ見慣れた言葉であって、字面だけ見ても分かるような気がするためでしょう。また「スタートアップ」はウィンドウズのパソコンで起動時に立ち上がるプログラムを指す言葉でもあり、なんとなくなじみのある言葉と感じられるかもしれません。
辞書サイトの「ジャパンナレッジ」で「スタートアップ」を検索すると、2019年版の「現代用語の基礎知識」に特に詳しい説明が載っています。一部を引用すると
技術の革新性を基盤に、まったく新しいビジネスモデルを構築し、急成長を目指す新興企業のこと。グーグルの親会社アルファベットはスタートアップの代表的企業の一つである。日本では、長い間創業数年の技術専門性が高く、革新力に富む小企業がベンチャー・ビジネス(VB)と呼ばれてきた。和製英語で日本で創造された概念である。スタートアップの初期形態とみなすのがよい。(以下略)
事例としてグーグルの親会社、アルファベットが挙げられているところから類推して、新しい技術でそれまでなかったものを生み出し、急成長しようとする企業というモデルが見えてきます。新しい企業でも、従来のビジネスの枠組みに収まるようなものはスタートアップとはあまり呼ばれないようです。
「スタートアップ求む」
日本は今、このスタートアップの育成に躍起になっていると言っても言い過ぎではないでしょう。2021年、当時の岸田文雄首相が所信表明演説で「イノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援を通じて、新たなビジネス、産業の創出を進めます」と言及。それ以後の首相の国会演説でもスタートアップは繰り返し登場します。
2024年のいわゆる「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2024)でもスタートアップのために一節を割いています。1ページの中に「スタートアップ」が19回も出てくるほどの熱の入れよう?ですが、こうしたカタカナまみれの文章を読むとなんとなく読み手が置き去りにされているような気分になります。いや、そもそも一般の人が読むとは考えていないのでしょう。
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(「経済財政運営と改革の基本方針2024」から)
今回のアンケートの結果では「説明不要」と考える人は全体の3分の1程度でした。カタカナ語は気がつくとよく使われるようになっているものが多く、「スタートアップ」もそうした例の一つだろうと思います。現時点では、できれば「急成長を目指す新興企業」ぐらいの説明を付けるのが望ましいと思いますが、せめて「新興企業」ぐらいを補うのがベターだろうと考えます。
(2025年02月24日)
1月に開会した通常国会、石破茂首相は冒頭の施政方針演説「大学・企業・自治体等が連携し、地域にイノベーションの主役を生み出し(中略)スタートアップとして大きく育てていける環境を整備します」と述べました。最近の首相の演説をさかのぼって見てみると、この「スタートアップ」は2021年の岸田文雄首相(当時)の所信表明から、国会演説には毎回顔を出しているようです。
国語辞典の説明では「事業の立ち上げ。起業。開業。また、新会社・新規事業」(三省堂現代新国語辞典)というものが当てはまりそうです。単に起業することでなく、その事業体も指すということです。ただし、起業の中でも「特に、新しい技術や考え方を用いて急成長を遂げようとするものをいう」(旺文社国語辞典)とする説明も見られます。
「スタートアップ(新興企業)」という書き方も見かけますが、これだけではニュアンスが伝わらない可能性はあります。ひところは「スタートアップ」といえばパソコンで最初に立ち上がるプログラムのことで、その類推でなんとなく、新しく始めるという雰囲気は伝わるのかもしれませんが、どうでしょう。皆さんはこの言葉、すんなり受け取ることができているでしょうか。
(2025年02月10日)