正月に放映されるテレビ番組では、紋付きはかま姿の人が出てきて「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」などと言ったりしますが、そういったものは、生中継の番組を除けば、制作スケジュールの関係で、ほとんどが前の年に収録されます。それは新聞でも同様で、たとえば今年の元日に毎日新聞に掲載された「経済有識者 新春座談会」は、「新春」と銘打たれているものの、座談会が行われたのも、紙面をつくったのも旧年のうちでした。そういった「未来の記事」を校閲する際に注意しなくてはならないのが「今年」「来年」「昨年」をはじめとした「時制」の問題です。
2012年に書かれた記事がその年のうちに読まれたら、文中の「昨年」「今年」「来年」は「11年」「12年」「13年」のことをあらわします。ところが年を越して13年にそれが掲載されると、それぞれ「12年」「13年」「14年」のことになり、ズレが生じます。間違いが起きないように、「今年」や「来年」の文言が出てきたときには、「新聞に掲載されてこれを読んでいるときは2013年なのだ」と頭を切り替え、「今年」を「昨年」に、「来年」を「今年」に直すよう、指摘します。本当に紛らわしい場合は「12年」「13年」などというように具体的な数字にした方がいいと提言します。
年の変わり目ばかりでなく、週や月の変わり目にも注意が必要なのはいうまでもありませんが、同様に、文中に出てくる具体的な数字にも目配りが欠かせません。例えば、冒頭に挙げた「新春座談会」では、コマツの坂根正弘会長の発言として「コマツは8年前にスウェーデンの林業機械メーカーを買収した」というくだりがあり、考え込んでしまいました。2012年時点では「8年前」であっても、掲載されるのは13年。詳細な「何月何日」が示されていないので、年ベースでは「9年前」になりますが、と筆者に指摘して、直すかどうかを検討してもらうことになります。
そうこうして、いろいろな時制違いをクリアしてホッとしていたら、油断がありました。「立春」の行事を紹介する原稿のなかで「冬日が差す」と書かれていました。確かにまだまだ寒い日が続いていますが、暦の上で、せっかく「春」が来たのに、また冬に逆戻りというのもどうでしょうか。「季節の時制」にも注意が必要でした。