校閲記者として働きはじめてはや5年。日々辞書を片手に、見たことや聞いたことのない言葉をひきひき、悪戦苦闘しています。ただその一方で、今まで分かった気でいた言葉でも、実際にはきちんと理解していなかったということも、恥ずかしながら多々あります。
先日、東京電力福島第1原発で、停電のために使用済み核燃料プールの冷却装置などが停止した問題で、配電盤の下にネズミの死骸が見つかった、という記事が毎日新聞に掲載されました。1面と2面で展開し、2面は写真つきでしたが、その写真説明では、ネズミの大きさが「全長約25センチ」と書かれており、ずいぶん大きいネズミだなあと思いました。ところが1面の記事では「体長約15センチ」。数字が違う!と思わず言いそうになってしまいましたが、よくみると「全長」「体長」と書き分けています。「全長」はしっぽの長さまで含めた数字で、「体長」は全長からしっぽ分をひいた数字なのです。その違いを理解していなかった私は、しっぽの長さを含まない、25センチという「巨大ネズミ」を想像したのです。
最終的にはどちらも「体長約15センチ」で統一しましたが、気になったので過去の記事を調べてみました。今回とは少し事情が違いますが、「全長約3ミリの毛蚕(けご)が、体長3センチほどになった」と書かれたものがありました。蚕の形から考えると、全長でも体長でも変わりはないのでしょうが、この書き方だと少し不親切です。やはり混乱を避けるためにも、どちらかの言葉でそろえた方が良かったと思います。
それにしても、紛らわしい。図鑑などでは、全長での記載はほとんどなく、哺乳類に関しては頭胴長(体長)、尾長(しっぽの長さ)と分けて書かれています。この二つを足して全長ということです。ここまで書かれていた方が分かりやすいし、イメージがしやすいですね。今回のように、体長と全長できちんと使い分けられていたからこそ、私は初めて自分の思い込みに気づくことができましたが、もしも「全長25センチ」「体長25センチ」となっていたら……。改めて、自分の思い込みを疑い、きちんと理解することが大切なのだと感じました。
【薄奈緒美】