高校野球のシーズンなどになると、登場頻度が上がるので、気にした編集者らがときどき尋ねてくる言葉があります。「同級生」という語です。「同級生」を「同じ学年の生徒」という意味で使っているけれど、「クラスメート」が本来の意味で、学級が同じでないといけないのでは?という指摘です。私たちも、日々接する記事で、かなりの量の「同級生」が「同学年」を指しているという体感はあります。むしろはっきり「クラスメート」と分かる記事の方が少数派のように感じます。私個人は、それで違和感がありませんでした。
辞書はどうなっているでしょうか。
◆日本国語大辞典(第2版)「【同級生】同じ学級の生徒。クラスメート」
◆大辞林(第3版)も全く同じ。
しかし、「同級生」と、「生」をつけて見出し語にとっている辞書は少なく、「同級」という見出し語の用例として出てくることのほうが多いのです。たとえば、
◆岩波国語辞典(第7版)「【同級】同じ学級や等級に属すること。『――生』『中学で田中と――だった山口が』『この機械と――のが欲しい』」
◆三省堂国語辞典(第7版)「【同級】(1)同じ学級。『――生』(2)同じ学年。『彼とは――だ』(3)〔文〕同じ等級」
◆新明解国語辞典(第7版)「【同級】同じ・等級(学級)。『――生』」
といった具合です。この書き方は多少微妙ですね。三省堂国語辞典は「同級生」に関して同じ学級に限るというふうに読めますが、他の二つは「同じ等級の生徒」とも解釈でき、「同じ等級」とは、「同じ学年」のこと、という理解も成り立ちうるような気がします。辞書も多少曖昧なわけです。
そこで、少し古い辞書を見てみます。
◆新編大言海「【同級】(一)階級ノ同ジキコト。同ジ等級(二)同ジ学年」
と、むしろ「学級」の語がありません。新編大言海は、1937(昭和12)年までに刊行された「大言海」を、戦後の新仮名遣いにした以外は、ほとんど改変していないということですので、「同級」を「同じ学年」とする解釈は戦前からあった、ということになります。また、漢和辞典では「同級」を熟語の見出し語に挙げているものが少ないので、あまり参考になりませんでしたが、見つかったのは大漢和辞典でした。
◆大漢和辞典「【同級】同じ等級。同じ学年。同一の学級」
実に簡潔で、ここにも「同じ学年」という解釈があります。
こう見ると、例が少ないので断言はできませんが、「同級生」を「同じ学年の生徒」と解釈しても、あながち誤りとは言えないのではないか、と思うようになりました。しかし、2011年4月刊行の最新の辞書・明鏡国語辞典(第2版)では「同級生」の見出し語を立てて、こう記述しています。
◆明鏡国語辞典(第2版)「【同級生】同じ学級の生徒。クラスメート。『高校時代の――』〔表現〕同学年、同期生の意で使うのは、本来は誤り。『×学校は違うが同年生まれの――だ』」
これと正反対の記述をしているのが2012年11月刊行の大辞泉(第2版)です。
◆大辞泉(第2版)「【同級生】同じ学級の生徒・学生。同じ学年の生徒・学生。〔類語〕級友・クラスメート」
と、今までの辞書で曖昧だった「同じ学年の生徒」という意味を、ついに採用しています。
現状、使われている実態からは、「同じ学年」の解釈を紙面から排除していくのは、かなり難しいと思われます。採用する辞書もあり、「誤り」と書いてある辞書も「本来は」というただし書き付きです。
さて、読者の皆さんは、どうお思いになるでしょうか。違和感を持たれるでしょうか。
【松居秀記】